温かい腕の中で/敏京
「京君は俺の何処が好き?」
「は?敏弥を好きなんて言うた事あったっけ?」
「もーまたそう言う事言う!たまには言えよ」
「あーもーうっざい。絡むな」
「何だよ京君のバカ!」
「はいはい、早よ寝ろやお前」
「やだ!」
「やだって…。死ね」
「可愛くないなー!まぁそこが可愛いんだけどねー」
「はぁ…」
男2人で寝るには狭いベッドの中。
仕事が遅くに終わって、僕んちに帰って来て疲れた中、気力でシャワー浴びて。
いつもやったら一発ヤッて寝たりするんやけど、そう言う気分にもならへんし、敏弥と2人くっついて寝る体勢になっとったら敏弥が絡んで来た。
さっきまで疲れて眠い眠い言うとったやないか。
無駄に長い腕が、俯せで肘を付いて携帯をイジる僕の背中に回って来た。
そうでなくても狭いベッド、嫌でも密着しとる距離。
眠くて逆にハイになったか。
めんどくさいな。
腕を払っても、また絡む。
敏弥は明らかに機嫌がえぇ声。
「俺が京君の好きな所はねー」
「聞いてへんから」
「可愛くて俺だけに結構我儘な所でしょー。八重歯が見える笑顔も可愛いし、喘ぎ声はエロくて興奮するし、関西弁で甘えた声出されたらもう無理。勃っちゃうよね」
「キショい。僕そんなん言わへんし」
「後ねー、歌う事に一生懸命な所とか努力してる所とか。京君の真っ直ぐな姿勢、大好き」
「……」
絡んだ腕が、僕の頭を撫でて。
敏弥の方を見たら、にこにこしながら僕を見とったけど、眠そうやった。
「京君は?俺も言ったんだから言ってよー」
「そんな交換条件約束してへんから」
「お前あんま煩いと外に放り出すで」
「やだやだ。夏だから虫に刺されちゃう!」
「風邪は引かんからえぇやろ」
「やーだー。京君と一緒に寝るんだもん」
「はぁ…ウザ…」
「口悪ーい。まぁそう言って振り払わない所とか、口よりも行動の方が京君饒舌だから、いいんだけど」
「お前やっぱ外出ろ」
「嫌」
別に、敏弥とくっつくんは今更っつーか。
慣れてしもとるから身体に腕が絡んでも放置しとんやけど、言われたら言われたでムカつくから、足で蹴って離そうとしたら逆に足を絡め取られた。
無駄に長い足しやがって、ムカつく。
全身、敏弥に抱き付かれて、体格差の所為で抜け出せへんかった。
……。
何や散々僕に絡んで煩かった癖に、僕より先に寝るってどう言う事や。
少し緩んだ敏弥の腕の拘束に、身体を動かして自分が寝やすい位置に正す。
部屋は暗くしとるけど、目が慣れると結構見える。
間近に見る敏弥の寝顔は、僕ん事散々童顔やって喚くけど、お前も大概やでって思う。
『何処が好き?』
敏弥の言葉を思い出す。
何処が好きなんやろなぁ…。
人前でイチャイチャしたがるし、発言はキモいし変態やし。
何より僕の好みと正反対な筈やのに、敏弥と毎日一緒におるんが自然で楽しかったりする。
時々ウザいけど。
さっきので眠気ちょぉ飛んでもうて、敏弥の安らかな寝顔を見て何となく頬をつねる。
柔らかい。
ちょっと引っ張ってみると、敏弥が眉を寄せて唸る。
「……なぁーに…」
「別に」
「…もー…」
「……」
暗闇の中、少し目を開けた敏弥がふにゃふにゃした喋り方で、僕の身体に腕を巻き付けて引き寄せられた。
首筋に顔を埋める形になって、背中をぽんぽんと叩かれる。
すぐまた聞こえる寝息。
こうやって、無意識でも、意識下でも僕ん事を甘やかす敏弥。
僕が好きって言わんのもわかっとるやろ。
そう言う所が、安心する要因で。
好きなんやろなぁって思う。
言葉に出来る感情やあらへん。
つーか、調子乗るから言いたくない。
僕がずっと一緒におるんやから、わかれよって思う。
敏弥の匂いがする中。
寝てる首筋に額を擦り付けて、自分も寝る為に目を閉じた。
終
20120812
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