指先/京流
僕とるきが一緒におる時間は、大抵が深夜か朝方。
たまに集合が遅い時は昼間もおったりするけど。
大概るきはパソコンに向かい合っとって、コイツはホンマ仕事人間やなぁって思う。
どっちかって言うと、こっちは出来上がるまで家に帰らんってスタンスやから、家に持ち帰りっつー事をあんませぇへん。
作詞とか歌入れとか、たまに自宅でする事もあるけど、それは気分やし。
まぁでも昔は薫君も自宅作業しよったなぁ。
真面目気質なリーダーやから、何でも追求したくて抱え込むし。
あれ、るきってリーダーやったっけ?
まぁそんな事どうでもえぇか。
深夜の、寝るまで時間。
そんな下らん事を頭ん中で思いながら床に座ってパソコンを操作する、るきの後ろ姿を見る。
おもろいテレビ無いし。
最近は落ち着いた色にしとるるきの髪色。
何回美容室行くんやってぐらい、新しい髪色にしたら報告して来るんやけど。
男の癖に細っこい身体の線で、全く筋肉無い。
逆にそんな身体でステージこなす方が不思議や。
るきの観察にも飽きて、不意に自分の手元に視線を落とす。
そう言えば最近爪切ってへんかったなぁって。
少し伸びた爪の先を見ながら立ち上がって爪切りを探す。
目当てのモン見つけてゴミ箱と一緒にソファに戻ってまたそこに座る。
テレビの音声と、るきがパソコンいじる音と。
パチンパチンと爪を切る音が室内に響いた。
ふと、視線を感じて顔を上げるとパソコン画面と睨めっこしとったるきが振り返ってこっちを見とった。
「…何」
「あ、いえ。爪切ってんだなーって」
「そりゃ切るやろ。勝手に伸びるんやから」
「俺が手入れしてもいいですか?」
「…別にえぇけど」
「やった!」
眼鏡越しに見えるるきの目が嬉しそうに細められて立ち上がる。
さっきまで見とったパソコンは、もうトップに戻っとって一区切り付いたんやろな。
どっか行ったるきは、手に何か持って僕の隣に座った。
僕の手を取って引き寄せると。
もうほとんど切った爪に、細長いモンを出して先端を削ってった。
結構真剣な顔で。
「京さんの手って綺麗ですよね」
「そー」
「入れ墨めちゃくちゃ似合ってるし」
「……」
「もう爪黒くしないんですか?」
「えぇ加減せぇへんやろ」
「えー、似合ってたのに」
「今更」
丁寧に僕の爪にヤスリをかけるるきの爪は、サロンでやって来たって言うとった。
黒く彩られた爪。
どっちかって言うと、細長い形のるきの爪は少し伸びとった。
片方がヤスリをかけ終わったらしく、もう片方の手を取られる。
「サロン行ってたら、あー爪ってこんな風に手入れするんだなーって、色々質問しちゃったんすよね」
「ふーん」
「簡易道具も買っちゃったし。1つの業種に精通してるクリエイティブな事って、好きなんで」
「あー…」
るき凝り性やしなぁ。
飽き性でもあるけど。
ヤスリで綺麗に短く整えられた爪。
それで終わりかと思ったら、何か液体取り出して次は細い金属の棒みたいなんで付け根に何かし出した。
ようやるわー。
るきのする事をじっと見ながら溜め息。
「京さんって、結構マメに爪切りますよね」
「伸びとったら嫌やん。お前は必要なさそうやけどな」
「あー…サロン行くようになってから、頻繁には切らなくなりましたね」
「女日照りやし」
「…あぁ、必要全くないですね」
「それもどうなん」
「それこそ今更、ですよ」
笑って顔を上げたるきは、ご丁寧にニッパーみたいなんで爪の根本の皮膚を切って取り除いて。
甘い匂いがするクリームを手に出して僕の手をマッサージする様に擦り込んだ。
「でもジェルネイルしてると、爪が分厚くなるんで引っ掻いても痛くないでしょ?」
「あぁ…」
そもそも、ヤッとる時にそんな事考えもせんし。
入れ墨入っとるから目立たへんから気にせぇへんし。
「出来ました」
「…どうも」
形が綺麗に整えられた爪を見て、煙草を咥えると微かに自分の手からえぇ匂いがした。
慣れた手付きで僕に火を点ける、るきの指先からも。
お互いまぁ、夜に支障は無いわな。
終
20120808
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