その人と一緒に/京流
ツアー遠征から帰って来て、ちょっと事務所に行って打ち合わせをして自宅に送り届けられて。
キャリーん中から洗濯物を取り出して洗濯機に入れて、そのまま風呂場へ直行。
最近ゆっくり湯船浸かってねーかもって思いながら、髪と身体を洗って浴室から出る。
またすぐ遠征しなきゃいけねーから、荷造りしなきゃなーとかそんな事を考えながら身体を拭いて。
部屋着のスウェットとTシャツを着て、洗面台の前で髪をドライヤーで乾かしてから眼鏡を掛ける。
冷房を効かせたリビングに戻ると、つけて無い筈のテレビがついてて。
ソファに座る、その人の姿を見つけた。
「京さん、お帰りなさい」
「…何やお前、帰って来とったん」
「やだなー今日帰るってメールしたじゃないですか」
「せやっけ」
「あ、ガリガリ君食べます?」
「あー…うん」
今日は京さんも仕事で遅いって聞いてて、ご飯はいらないって言われてたし何も作ってねーんだけど。
一応コンビニで冷たいモン欲しくて買ったんだよね。
遠征してた期間はそんなにねーけど、やっぱ京さんに会えるとテンション上がる。
冷凍庫から買ったガリガリ君を持って京さんがいるソファに座る。
「梨味とソーダ味、どっちがいいですか?」
「…梨」
「はーい」
京さんに渡して、袋を開けて中身を取り出す。
京さんの分のゴミも一緒にゴミ箱に捨てて、また京さんの隣に座る。
ガリガリ君をかじると、冷たい感覚に喉が潤う。
「あ、京さん昨日は土用の丑の日でしたけど、鰻食べました?」
「食ってへんけど」
「ですよねー。最近鰻高くなっちゃって。手出しにくいんですよ」
「ふーん」
「今更ですけど、明日のご飯、鰻にしますー?」
「高いんちゃうんか」
「それは…どうにか頑張って」
「別に拘り無いからどうでもえぇし」
「夏を元気に乗り切らなきゃ」
「外に出んかったら元気になる」
「確かに。ずっと冷房効いた部屋にいたいですよね」
しゃくしゃく食べながら、京さんの肩に頭を預けてソファに両足も上げて話をする。
鬱陶しい時は振り払われるから、振り払われ無い事にニヤニヤしながら今の状況を逃さない様に思い切り甘えておこう。
遠征で行った場所の話や、ライブの話を喋ってると、京さんは聞いてんのかわからない感じなんだけど、たまに相槌打ってくれるし。
何だかんだ聞いてくれてんだろうなー。
「…京さんの梨味ひとくち下さい」
「……」
「…ソーダ味あげますから!」
「そんなんいらんわ」
「ッ、」
京さんが食べてるガリガリ君(梨味)が欲しくなって、ひとくち強請ってみる。
京さんは俺の方をチラッと見て。
もっかい強請ったら問答無用で食べかけの梨味を口に突っ込まれた。
しゃく、とひとくちかじったら、京さんは何事も無かったかの様にまたガリガリ君を食べながらテレビに視線を戻した。
夏限定の梨味も美味しかったけど、色気も何も無いやり方での京さんからの『あーん』に顔が緩む。
あー、好き。
憮然とした顔でテレビを観てる京さんの横顔を眺めて、堪らずに腕に抱き付いて擦り寄る。
「うざい」
そしたら、一言そう言って腕を振り払われた。
けど、諦めない。
「京さんソーダ味もいる?」
「いらん」
「いる?いります?」
「いらん言うとるやろ。棒目ん玉に突っ込むぞお前!」
「それは京さんが見えなくなるんで嫌です!」
「…お前の拒否る理由ようわからんわ」
しつこくまとわり付きながら言うと、食べ終わった京さんが棒を灰皿に投げ捨てた。
仕方無いから、また京さんの肩に頭を預けて残りのガリガリ君を食べ終わる。
あー、うん。
京さんって感じ。
まだまだツアーあるけど、このオフの感覚。
京さんで充電して、また頑張れる。
帰って来れる場所があるって、いいね。
終
20120728
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