声/京流



何となく寝苦しいて、うっすらと目を開ける。
手探りで探した携帯で時間を確認すると、まだ起床時間では無くて溜め息。

タイマーセットしとった冷房も消えて、寝汗かいてじっとりと濡れた自分のTシャツを少し扇ぐ。

最悪や。

今日何でこんな暑いねん。

冷房つけたまま寝たら喉にも体調にも悪いんはわかっとるけど、やっぱつけて寝な寝れんわ。


真っ暗な部屋ん中、身体を起き上がらせて慣れて来た目でエアコンのリモコンを取って、冷房をつける。


中途半端な時間に起きてもうたから、また寝れるかわからんから怠い。
膝を立てて肘ついて頭を掻く。

汗かいてTシャツが冷たなって不快やから脱いで床に落とす。
このまま寝たら風邪引くやろか。
かと言って新しいTシャツ取って来るんもめんどい。


ふと下を見ると、こっち向いた横向きに寝とるるきが目に入った。

るきも暑いんか知らん、夏用のブランケットを羽織らずに抱き込む様にして寝とった。
ちょっとこめかみを撫でると汗で髪が濡れとった。


寝とるるきは当たり前やけど静かで、起きとる時の様にギャーギャー煩くない。
コイツは喋るん好きやからマシンガントークして来やがるし。

まぁ別に、適当に流すし話するんが苦では無いから平気なんやけど。
つーか、喋るん嫌いやったらコイツとは一緒に暮らせへんでな。


物言わへんるきの顔を何となく撫でる。
寝られへんから暇やし。


頬から唇へとゆっくり指をなぞらせて、るきの下唇を指の腹で撫でる。
したら、さすがに気になって起きたらしいるき。


「…ん、きょうさん…?」


ほっそい目を開けて、瞬きをしながらるきが寝起きの掠れた声で僕の名前を呼んだ。
るきの低い声。


何となく、いつも聞いとるるきの声を思う。


歌声。

話し声。

何か強請る時の媚びた声。

甘えた声。

メンバーとおる時の声。

喘ぎ声。

泣き声。

怒った声。

拗ねた声。


声にも表情があるから、いくら取り繕っても隠せない感情がそこに入り交じる。

そして、その感情を読み取れる様になったぐらい、るきと一緒におるのが月日の流れを感じさせた。


「…どうしました?」


何となく、るきの肌を無言で触り続けとると、るきは目を細めてわらって問い掛けて来る。
寝起きで、ちょっと舌っ足らずになった、けど優しい声。


「別に」


それが、何か癪に障って。
触れとった手を離してタオルケットを手繰り寄せてるきに背を向けて寝転がる。

クーラーつけたから、ちょっとは涼しくなって来たけど。
一旦目ぇ覚めてしもたから、また寝れるかはわからん。


したら、後ろで動いた気配がしてるきの身体が背中にくっつく。
素肌に手触りの良さで選んだタオルケットが擦れて、それ越しにるきが密着して僕の腹に片腕が回る。


「…寝れませんか」
「別に」
「暑いですもんね」
「……」
「でも京さん、クーラーつけて裸で寝たら風邪引きますよ」


意識が覚醒して来たのか、しっかりした口調になって来たるきの声。

コイツも忙しいてあんま寝る時間ないやろに。
快眠しとったんを起こされても少し嬉しそうな声色で、僕の背中に額をくっつける。

背中から抱き付かれるが嫌いやから、しょうがなくるきの方に身体を寝返らせてるきの身体を引き寄せた。


首元に埋まるるきの顔。
背中に回るるきの腕。


「子守唄、歌いましょうか?」
「…ざけんな、死ね」
「あはは、朝までしりとりします?しりとりって言葉知ってれば延々と出来そうですね」
「考えんの、めんどい」
「えー。京さんの歌詞とか、言葉遊び好きなのに」
「……」


背中に回った腕はゆっくり僕の背中を撫でて。
僕の首元で、優しく言うるきの声を聞きながら目を閉じて、暗闇ん中、るきの声だけが響く。


僕とは違う、心地好い低音。


生業とするモンは、確かに人に伝えるに長けとるんかもしれへん。


僕は多分、コイツの声が好きなんやろなぁってぼんやり思う。


素肌になった僕には、クーラーの冷えた風と、るきの寝起きの高めの体温が相まって気持ち良かった。

から、離す理由なく、るきがぽつぽつ喋る言葉を聞いて。
朝が来るんを待つんもえぇなって思った。




20120723



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