季節感は無い/京流
蟹がるきと共に帰って来た。
いや、るきがライブで北海道行って、中日に東京戻るとは聞いとったんやけど、るきが帰って来ると同時にデカい発泡スチロールの箱に入った蟹が届いた。
宅配便の兄ちゃんとインターフォン越しに会話して、鍵開けてやったら代わりにるきが受け取って帰って来たっぽい。
どんなタイミング。
宅配が来ると思ったのに代わりに玄関開いたから何や思って玄関に向かうとるきが遠征用のキャリーと明らか買い物して来ましたーって荷物を持って。
ツアー中やからかいつもよりちょっとハイなるきが帰って来た。
「京さんただいまです」
「…おかえり。何それ。宅配は?」
「あ、俺がちょうど帰って来たんでそのまま受け取りました。北海道行ってたんで、蟹買って来ましたよ!蟹!」
「お前、何しに地方行っとん」
「だから今日はカニ鍋です」
「……。るき、今は何月?」
「7月ですね。材料買って来たし、蟹の捌き方よくわかんねーんすけど頑張ります」
「……」
まぁ別にえぇけど。
7月に鍋って…。
溜め息を吐きながら、リビングに戻る。
るきはキャリーやら箱やらを持って後を着いて来た。
リビングのソファに座ると、キャリーを置いたるきがキッチンに言って鼻唄を歌いながらガサガサと箱を開ける音が聞こえて来る。
遠征帰りやっちゅーのに元気なヤツやな。
他は何か取り出す音やら。
るきがおると基本家で作られた飯食うけど作る時間バラバラやし。
ソファから振り向いてキッチンを見ると、発泡スチロールの箱を開けて何か…蟹を取り出したるきがiPhoneで写メを撮っとんが見えた。
…いつ食えるんやろ。
「京さーん、ご飯出来ましたよー」
「んー」
「あ、冷房下げて下さい」
「…何で」
「鍋熱いんで」
「だから何で7月に鍋すんねん」
「蟹買ったらカニ鍋しか思い浮かばなかったんで」
アホか。
テーブルの上にあったリモコンを手に、空調の温度を少し下げる。
キッチンの方のテーブルに行くと真ん中に蟹の足が入った鍋が置かれとった。
見た事ない細長いスプーンやらハサミやら。
こいつわざわざ買ったんやろなぁ…って思いつつ、席に着く。
「京さん、ビール飲みます?」
「や、えぇわ」
「はーい」
忙しなく動くるきは、グラスに烏龍茶を注いでお互いの方に置いた。
鍋の中は蟹の他に野菜や豆腐や肉が。
まんま鍋。
冬によう食ったなぁ…って、今食うとは思わんかったけど。
「…蟹デカない?」
「あー…足ちっさいと食べにくいかなーって思って。でも蟹味噌とかどう料理しようか迷うんですよねー」
「足だけのヤツもあったやろ」
「あ、確かに。でも一匹買った方が『蟹!』って感じしません?」
「いや、ようわからんけど」
「蟹スプーンとハサミは買ったんで、頑張って食べて下さい。いただきます」
「頑張ってって何やねん」
「あ、殻入れはこれです」
るきがボールを差し出して来たんを横目に、取り敢えず目の前にある蟹の足を取る。
蟹食べた事ない訳ちゃうけど、家で食うってあんまないからめんどいなーって思いながら殻を取ったりして食べる。
「………」
「………」
「………」
「……何で人って蟹食ってる時に無言になるんですかね」
「食う為にする事がめんどくて集中するからやない」
「あ、確かに」
「………」
「………」
「………」
「…最初っから身剥けてたらいいのに」
「お前が丸々一匹買って来るからやろ」
お陰で手ぇベタベタすんねんけど。
自分で買って来といてグダグダ抜かすな。
「あ、北海道のお菓子も買って来ましたよー」
「お前そんな食いモンばっか買って来てどなんするん」
「京さんと食べる為です」
「…ツアー行って帰って来んかったらえぇのに…」
「そんなの京さんが寂しいですよね!」
「………」
「………」
「………」
「…何かすみません、俺が寂しいです、ハイ」
るきの言葉に冷めた目で見たら一瞬の沈黙の後、謝りながら言うて来たるきを鼻で笑う。
そらそうやろなぁ。
遠征先の景色や食いモンをアホみたいに写メって送って来とんは何処の誰やねん。
「北海道の海の幸って美味しいですよねー、蟹って感じで」
「意味わからんし」
「美味しかったから京さんと食べたかったんです」
「丸ごと一匹はいらんでな」
「料理は見た目から!」
「あーはいはい」
確かに美味しかったけど。
適当に流して応える。
るきのする事に慣れてしもた事実に溜め息しか出ぇへんけど。
終
20120712
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