相反/京流+虎
もうすぐ着くって旨のメールを受信したメールに返信をして。
携帯をテーブルに置いて先に頼んだアルコールに口を付ける。
ルキさんと会う約束をして、仕事も遅くなるって事で少しいい雰囲気のある店を指定して待ち合わせてたんだけど。
遅くなりそうだから先入っててって言われて入った店内。
暗い照明で、半個室みたいになってて。
夜景がよく見えるガラス窓を前に多分カップルが座るであろう横並びのペアシートに案内された事に、少し笑える。
確かに後から人が来るって言ったけど、こんな時間にこう言う店で待ち合わせしても、来る相手は男なんだけどね。
想い人ではあるけれど。
「悪ィ、虎。遅くなった」
「あ、ルキさん。お疲れ様です。忙しいのにすみません」
「や、なかなか誘いに乗れなくて御免」
「大丈夫ですよ、何かこんな席になっちゃったんですが、どうぞ」
「うわ、何ここ」
店員に案内された後ろからルキさんの声が聞こえて来て、反射的に立ち上がる。
サングラスに黒を基調とした服装のルキさんが、軽く謝るように頭を下げながらやって来て、それに会釈しながらペアシートの隣を指す。
案の定、吹き出すように笑いながらシートに座るルキさん。
都会の夜景が見える雰囲気のある店に半個室の場所。
これが女の子相手なら、スムーズに事が運びそうな場面だな、とか思いながらサングラスを外してシートに深く腰掛けて一息吐くルキさんを見やる。
「ルキさん、何飲みます?」
「あー…。カルーアで」
「わかりました。何か食べますか?」
「や、仕事場で食べて来たし、あんま腹減ってねーから、大丈夫」
「わかりました」
店員を呼んで、ルキさんの分と自分のを新しく注文しながら、煙草を取り出して咥えたルキさんの方に灰皿を差し出した。
「サンキュ」
「いえ、場所すぐにわかりました?」
「うん、大体。ってかこの席ヤバくね?野郎2人で並んで夜景見るってどうよ」
「俺もちょっとビックリしましたけどね」
「えー、虎は頻繁に来てんじゃねーの?こう言う店知ってるとか」
「無きにしもあらず、で」
「はは。お前モテそうだもんなー」
ルキさんが煙草の煙を吐き出しながら目を細めて笑う。
いい感じに落とされた照明が、陰影をつけてルキさんの顔を照らし出して。
男なのに、俺が好きと思ってるからか綺麗と思う。
ちょうど注文したカクテルが運ばれて来て、2人で乾杯をしてグラスを合わせる。
「…ルキさんの方がモテますよね」
「そんな事ねぇって。全然よ、俺」
「…昔結構な噂も耳に入って来ましたけど」
「あー…あの頃は俺も若かったね、色々あったし」
「今はあの人一筋なんですか」
「そう、京さん一筋。あ、この前さー花見行ったんだよ、見る?」
「…花見行くんすか、あの人」
「超意外だろ。貴重な写真」
煙草を灰皿に揉み消してiPhoneをそうさしたルキさんに携帯画面を見せられて、写し出されたソレはデカい桜の下でルキさんと、…あの人の写真が待ち受けになってた。
アングル的には悔しいけどいい写真だと思う。
「あれ?これ誰が撮ったんですか?」
「ん?れいた」
「あぁ、れいたさん…京さんとも仲良いんですか?」
「んー、どうなんだろ?仲悪くは無いけど。時々一緒に飯食うし」
「…意外なメンバーですね」
「そ?」
「や、あの人って好き嫌い激しそうなイメージだったんで」
「あー、確かに。でも自分の懐に入れると優しいよ、京さん」
「…そうなんですか」
「ま、そんな京さんは俺だけが知ってればいいんだけどね。俺が結構妬くから」
「…好きなんですね」
「うん、超好き。愛してる」
「……」
ルキさんの口から、あの人の愚痴は聞いた事なくて。
全部が惚気に聞こえて、頭が痛くなる。
これで俺が、この人の事を好きって言う雰囲気を出して、ルキさんもそれを感じ取ったら距離を置かれるんだろうな。
そう思うぐらい、ルキさんが何枚か見せて来るあの人の写真を見る表情は、嫌と言う程ルキさんの心情を表す。
ルキさんと一緒に話せるのは嬉しいけど、あの人の話は聞きたい様な、聞きたくない様な。
酔い潰して一回だけって事は望んでないから、どうせならあの人と喧嘩したとかそんな話を聞きたいんですけどね。
少しずつカルーアを飲みながら、あの人の話や仕事の話。
お互い語りながら、俺の頭の中はこの人の事で一杯になって。
この夜景や雰囲気で、簡単に落とせる相手だったらいいのに。
シートに2人、距離は近くても心は遠くて次元が違う。
肩も抱けないもどかしい相手。
それでも好きと言う想い。
「ここでも雰囲気いいなー。また今度京さんと来たい」
「…もう口説く必要ないじゃないですか」
「あ、やっぱこの店って口説く用?」
虎やるねーって。
笑う貴方こそ、その相手なんですけど。
盲目的になって、他人の感情を一切遮断するルキさんが愛しくて時々憎い。
終
20120603
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