朝早くの天体観測/京流
最近は熟睡っつーモンが出来んくなっとって。
何となく瞼の皮膚を通じて感じる空気は少し明るくて。
もう朝かって頭の隅にかんじつつ夢か現実か、その間を行き来しとった。
それでも往生際悪く枕を抱き込んでうつ伏せんなってまた眠りの中へ入ろうかと考えとった時、何やその場に似つかわしくない声が聞こえて覚醒する。
「京さん京さん、ちょ、凄いですよ見て下さい!ちょー綺麗に撮れたんですけど!」
「………、何やアホ。黙れ死ね」
ベッドのスプリングと共にるきの弾んだ声がして、イラッとする。
るきがベッドの上に乗り上げたであろう場所と反対側を向いて、片腕で目元を覆いながら。
地を這う様な自分の寝起きの掠れた声を聞いた。
そんな声を聞いても、テンションが上がったるきはお構い無しに僕の隣に身体を寄せて、揺り起こして来た。
「もうー京さんも起きて見ればよかったのに!超綺麗でしたよ金環日食!曇りで見えないかなーって思ったんですけど、雲の隙間から見えたりして。逆にそれが神秘的って言うか。これ、これ見て下さい綺麗に写メ撮れたんですよー。京さん、聞いてます?」
「…ッさい、触んな!」
るきがギャーギャー騒いで僕の身体を揺らすから、その手を乱暴に振り払う。
あーもう。
糞。
眠気吹っ飛んだやないか。
数回瞬きをして、顔をしかめて目を覚ます。
手探りで自分の携帯を探して時間を見ると、まだ朝8時前。
糞るき。
どんだけ早よ起こす気や。
「死ね」
「あ痛…ッ」
寝転がって振り向くと、意外と間近におったるき。
その頭をパシッと叩くと眼鏡掛けたるきは笑いながらまだ身を寄せて来た。
「ねー見て下さいよ。これ。太陽がリング状になってるんです」
「はぁ?」
「京さんと一緒に見たかったんですけど、すげーぐっすり寝て起きなかったんで」
「それで今起こしとったら世話ないわ」
「やー初めて見たんですけど、感動しちゃって」
隣で仰向けで寝とるるきがiPhoneを操作して写メった画像を拡大して見せて来た。
目を細めてその画像を覗き込む。
画像は、まぁ…何かるきが言う様に光のリングが出来とるんが写っとって。
写真としては、確かに綺麗な気もする。
るきはアーティスト気質なトコが強いから、アングルとかかなり拘る方やし。
「日食時間短かったんですけど、綺麗に撮れてません?」
「あーはいはい」
「これリング状に見えるんで、金環日食中にプロポーズする人もいるそうです」
「ふーん。何でもかんでもこじつければえぇっちゅーもんちゃうでな」
「えー。ロマンティックじゃないですか?何百年に一度とかですよ!超記念になるし」
「はいはい」
朝っぱらからテンション高いるきが僕に擦り寄って来るんを適当にあしらいながら布団を被り直して二度寝の体勢。
寝れんでもいいから、取り敢えずはまだ起きたくない。
「芸能人とかも日食中にプロポーズする人いたりするし、こう言う神秘的な物の時にプロポーズとかよくないですか?ねー京さん」
「うっさいなぁ…どうでもえぇし」
「もうー俺も狙ってたのに京さん寝てるから」
「おー寝とってよかったわ」
「何で!」
「はいはい、何か自然現象何回も見とんやから、今更やろ。僕まだ寝るし、時間なったら起こせよ」
「今までも一緒に見たけど、全部違うヤツじゃん!…もー…」
生意気に反論しとったけど、僕が無視して背中を向けたらるきは諦めた様に息を吐いて。
布団の上に寝転がとったるきが布団の中に入って来て、背中にぴったりくっついて来た。
額が擦り寄る感覚。
「おい、お前も寝るんか誰が起こすねん」
「頑張りまーす」
「はぁ…」
背中側にくっつかれるん好かんから、体勢を入れ替えてるきの身体を抱き込む。
眼鏡を外して、京さん好きーって、いつも通りアホな声でアホな事言うるき。
最終的にこうなるんやったら天体観測に夢中ならんと最初っからこうしとけ。
このアホが。
終
20120521
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