形成する物/京流
風呂上がり。
まだ濡れた髪のまま眼鏡を掛けて、京さんに言われてキッチンで珈琲を淹れる。
仕事から帰ってソファで煙草を吸う京さんのと、自分の分を色違いのマグカップに淹れて持って行く。
「…あ、」
「これ何?新作?」
「…俺のトコの新しいライブDVDです。後輩が欲しいって言ってたんで」
「あぁー」
「え?観るんすか?」
何人か後輩に欲しいって言われて、事務所から貰ったヤツをそのまま持って帰って。
飯行く約束とかしてたから、そん時渡せばいいかって思っていくつか積み上げたDVD。
新品のソレを京さんが手に取って封を切る。
…まぁ、別にまた貰えばいいんだけど。
京さんて、俺が観てって言ってもなかなか観てくんねーのに。
たまに気紛れか何か、俺らの映像観てんだよね。
元々DVDとか、観るの好きなんだろうなーとは思ってたけど。
珈琲の入ったマグを渡すと、代わりにディスクを差し出された。
セットしろって事ですね。
自分の分の珈琲に口をつけながら、デッキに自分のDVDをセットして。
ソファに座る京さんの隣に腰を下ろして肩にかけたタオルで髪を拭く。
映像は、自分が最終チェックした時と同じ。
綺麗に編集されてて問題なく何ヵ月か前のライブが映し出された。
数ヵ月しか経ってないけど、もう随分前にやった気がする。
今は次のツアーや音源製作に追われてるし。
そう言えば京さんとこう言う風に肩を並べて何かを観るのって久々かも。
そう思うと俺のDVDグッジョブ。
「……」
「……」
お互い無言のまま、DVDから流れる映像を鑑賞。
あー…確かに京さんに観て欲しいとは思ってるけど(自分が最高に格好良いと思ってるライブをやってる訳だし)
ライブ観に来ても映像観ても、京さん何も言わないから。
京さんの目にどう言う風に映ってるのか、知りたい様な知りたくない様な。
こん時は来て欲しかったけど、京さんもライブ予定があって無理だったし。
チラッと京さんを見ると、吸い終わった煙草は灰皿に捨てて。
ゆっくりとした動作で珈琲を飲んでた。
仕事して来た時の服装のまま。
そのままじっと顔を見てると、ゆっくりとした動きで視線がこっちに向いた。
「…なに」
「いえ、何もないです。京さんを見てただけです」
「アホか」
鼻で笑った京さんは、俺の方に手を伸ばして。
若干乾き気味になって来た濡れた髪の襟足を撫でた。
「お前、ころころ髪変わるなぁ」
「短いの嫌ですか」
「嫌やー言うたらどうするん」
「エクステ付けに行きます」
「相変わらず主体性が無いな」
「京さんの好みになりたいだけです」
「へーぇ。僕の好みなぁ。色白巨乳やのに?」
「………」
京さんが意地の悪い笑みを浮かべて、俺の襟足から顎へと手を滑らせる。
この意地悪な人が言う言葉は、俺をからかう為ってわかってる。
わかってる筈だけど、京さんしか見えてない俺は京さんの言葉一つ一つでテンションが変わる。
あからさまに不満そうな顔になった俺を見て、京さんは笑みを深くした。
「豊胸して来ましょうか」
「嫌やわ。チンコも胸もついとるとか、お前どんな生きモンやねん」
「だって、」
「まぁ」
顎を掴まれて真っ直ぐ見た京さんは俺の唇を親指で撫でた。
唇からの感触に、背中に軽い劣情が走る。
「色白はクリアしとるからえぇんちゃう。お前化粧すると見れる顔んなるし」
「今はダメって事っすか」
「見れる顔と、好みはちゃうでな」
「……ッ」
京さんの親指が、俺の口の中にねじ込まれて、言葉も全部、封じられる。
「つーか、見た目だけやったらお前無理」
「……」
じゃぁそれって。
俺の自惚れた考えで一緒にいてもいいんですか。
自分の歌声が聞こえる空間の中。
京さんの言葉の返事の代わりに、ねじ込まれたその指にゆっくりと舌を這わせた。
終
20120518
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