2人の出発点A/敏京
「…あ゛ー…だる…」
薫君と久々に飯食いに行って。
味も美味しいし、敏弥との事があったばっかやから。
話しながらもあんま慣れへん酒飲んだりしたから身体が重い。
怠い。
1人自分の部屋に帰って来たけど、やっぱ薫君ち泊まればよかったかな。
色々してくれるから楽やし。
でも今日は何となく1人でおりたい気分やったし。
上着を脱いで、冷えた室内にエアコンのボタンを押して暖房をつけてソファに寝転がる。
何となく、チェック出来ひんかった携帯を取り出したけど、後輩やら仕事のメールだけしか入ってへんくて。
少し安心したんと、寂しい気持ちが交差する。
いつもは、遊んだ後でさえメールなり電話なりして話しとった敏弥からの連絡は一切ない。
携帯の画面を見つめて、溜め息を吐く。
あからさまに敏弥から逃げたんは僕の方なんに、腹立つ。
諦めへんのちゃうんかボケ。
そんな風に勝手な事さえ思う。
仲間で、仲良いダチやと思っとったんに。
楽しかったのに。
その当たり前やと思っとった日常が崩れるなんて思わへんやん。
いつもは部屋で1人でおっても敏弥と携帯で繋がっとったし。
それが無くなったとしても、前と同じように戻るだけやのに。
何や、静か過ぎて余計1人でおる事を実感させられる感じやった。
「……アホらし。寝よ」
考えるんも怠い。
やって。
僕にどなんせぇっちゅーんや。
携帯を閉じて、怠い身体を無理矢理起こしてベッドに寝転がる。
着替えるんも怠いから、ズボンだけ脱いで。
明日も仕事やし。
どんな顔して会えばえぇんや、敏弥に。
「京君遅刻やでー」
「あー…うん。眠い」
「やっぱ俺んち泊まればよかったやん。昨日結構飲んどったし」
「ホンマや怠いあんま寝れんかったし、しんどい」
「大丈夫なん?二日酔いやったらスタッフに薬貰うか?」
「や、いける。眠い」
「寝たらアカンで」
なかなか寝付けんくて、やっと寝れたと思ったら寝坊して。
つーか、薫君が起きる時間に電話くれとったけど気付かんかったし。
焦るんも怠いから、ゆっくりスタジオ行ったら苦笑いした薫君に一番に話し掛けられた。
楽器持ったまま僕んトコ来て、何やかんや世話焼こうとする。
それを適当に流しながら、視線を泳がせて敏弥の姿を探す。
あ、おった。
心夜と打ち合わせしとんか知らん、何か話しとって。
いつもと変わらん姿やけど、いつもなら僕が仕事場来たら笑い掛けて来る。
そんで他愛ない話が始まる。
今日はそれがない。
「ちょぉ薫、俺が二日酔いん時と随分態度ちゃうんちゃう?」
「煩いわ。堕威はいつもアホみたいに飲んどるからやろ」
「酷いわぁ。俺も京君みたいに優しくして欲しいやん。なぁ敏弥ー」
「えっ?」
薫君と打ち合わせしとって、そんなやり取りを見とった堕威君が笑いながら話し掛けて来て。
敏弥の名前が出た時、無意味に心臓が跳ねたんが自分でもわかった。
敏弥は自分に振られるとは思わんかったらしく、上擦った声を出しとって。
「薫って京君に甘いやんなぁー」
「あぁー…うん、そうだね」
「ズルいよなー俺らが飲みに行って二日酔いで遅刻したら絶対キレんで」
「ほんなん当たり前やんか。遅刻すんなや」
「ほらなー」
「まぁ薫君は京君大好きだもんねー。仕方無いんじゃない」
「ホンマやんな。親子みたいに世話焼くしなー」
「うっさいわ、お前等。仕事せぇや」
「はいはーい」
薫君が笑いながら堕威君を手で追い払うような仕草をして。
メンバー内の、いつもの軽口。
そう言う筈やのに、敏弥の言葉が何やムカついて。
今まで気にしぃひんかったけど、敏弥の言葉には皮肉の意味が感じ取れて。
何やねん。
薫君は、お前とは違って世話してくれんねん。
眉を寄せて敏弥の方を見たら視線が合って。
何とも言えん表情した敏弥の方が視線を逸らせた。
何やねん。
「ほな京君寝んと仕事してな」
「あぁ、うん。多分」
「多分て」
「ちょ、ガキ扱いすんなや」
薫君は苦笑いをしながら、僕の頭をぽんぽん撫でて。
乱れた髪の毛を指で直しながら薫君を睨んでも、笑みを返されて持ち場に戻ってっただけやった。
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