ありふれた日常スタイル/京流
珍しく早めに仕事が終わって、自分ちでるきと一緒に夕食を食べる。
食べ終わると、るきが今日観たい番組あるからーって。
ソファに座ってるきが淹れた珈琲に口をつけながらテレビ画面を見る。
時刻は21時前。
いつも、部屋ん中で掛けとる黒ブチ眼鏡をしたるきは隣に座って、何か菓子の袋をガサガサ開けとった。
「京さん、これ食べます?」
「…何」
「ポテトチップス。バニラ味」
「バニラ味なん?」
「何か、塩味のポテトチップスにバニラ味のチョコがかかってる感じです。新製品だったんで」
「…お前物は試しでよう買うん」
「冷やしたんで美味しいですよ」
「……」
るきに差し出されたその袋ん中に手を突っ込んでそれを食べる。
「京さん美味しいっすか」
「…甘い。塩味」
「そのコラボがいいんですよー」
「ポテトチップスの癖に冷たい」
「だって冷蔵庫で冷やすと美味しいって書いてあったんだもん」
そう言いながら、るきもパリパリとポテトチップスを食って。
あ、意外と美味しい、とか言うとる。
えー。
これなら普通の買って来た方がえぇやん。
食べとるるきを横目に、口直しに珈琲を飲みながらテレビ画面に視線を移す。
デカい液晶画面には、見慣れた文字といつもの音楽。
あぁ、今日これあるんかって頭ん中でぼんやり思うと。
隣に座ったるきはまた僕の腕に身体を寄せる。
るきは隣に座る時、何処か身体の一部が触れる様に座って来る。
まぁ、それを許しとる辺り、るきが僕のテリトリーに入るのは苦痛やないって事で。
るきが隣におる日常が、自分の中で当たり前になってしまった事に自嘲する。
つーか、いつの間にこんなに甘える様になったんか。
我が出て来たと言うか。
もう慣れたからえぇけど、何だかなぁ。
リモコンで部屋の明かりを落として、液晶テレビの光だけ。
音声と、るきがポテトチップスを食べる音が室内に響いた。
こう言う番組は僕も好きやし、お互い無言でテレビに見入る。
けど、るきが僕の口元にポテトチップスを差し出して来たんを、眉を寄せてるきの顔を見て口を開く。
塩味の癖に甘いって言う、訳わからん味が口の中に広がった。
新製品やからって買って来る、るきが手に取るには十分なモンやけどな。
共有しとる熱を感じながら、甘さを打ち消す様に珈琲を口に付けた。
「…何か最近のこの番組って何となくオチが読めちゃいますよね」
「あー。長年やっとるし、ネタが無いんちゃう」
「残念。とか言いながら次もあったら多分観ちゃうんですけど」
「このタイトルが観させる感あるわな」
「ですよねー」
「1話目の女の話とか、るきやん。ストーカー」
「ちょ、俺は妄想の中では生きてませんよ!ちゃんと現実世界で京さんをストーカーしてます」
「ストーカーは認めるんかい。きっしょいな」
「あはは。好きなんですから、仕方無いです」
「仕方無いで終われるんならストーカー法は無いやろ」
約2時間の番組が終わって、るきがリモコンで部屋の明かりを点ける。
一気に明るくなった室内に眉をしかめながら煙草を取り出して1本咥える。
まぁ一緒に観たモンの感想言い合ったりするんはいつもの事で。
僕の腕から離れたるきは、ほとんど食いやがったポテトチップスの袋を丁寧にたたんで、ゴミ箱に捨てた。
るきは痩せる気は一切無いらしい。
煙を吐き出しながら、眼鏡を外して伸びをするるきの姿を眺める。
ホンマ、ストーカー並みにしつこく諦めへんるきと一緒に暮らすとか、いつ何処で間違ったんやろ。
「今日のお菓子は美味しかったですねー」
「普通のがえぇし」
「じゃ、次買っておきます」
「ほとんどるきが食うやんデブ」
「デブじゃないです」
とか言うるきは、まぁライブ前やからアレな感じなんやけど。
それはいつもの事やから、えぇか。
もう日常として受け入れとるこの現状。
当たり前過ぎて、楽で、好きやったりはする。
終
20120422
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