癒しフレーバー/京流




ヤリ終わって、サイドテーブルの方に向いて煙草を吸う。
たまに腕を伸ばして灰皿に灰を落として。

イコール、るきに背を向けとる状態。

ヤッた後、煙草を吸うんはもう僕の癖みたいなモンで。
それについて女みたいに冷たいだの何だの、後戯を要求して来る様な事は無い。


けど、さっきまで声枯らして喘いどったるきは。
息を整えたら僕の背中にピッタリとくっついて来た。

背中全体に素肌が触れ合うるきの体温。


腹に回って来る手。
絡む足。


僕のうなじの方に、るきの顔が埋まるのを感じる。


セックスの後の気怠い倦怠感に振り払うんもめんどくさい。

そう思って好きにさしとると、るきの鼻が擦り寄って来て。


「…あー…京さんのいい匂い…」
「……キショい事抜かすなお前」
「だって、俺と同じボディーソープの匂いだけど、京さん自身の匂いが混じって超いい匂いする…」
「何やのソレ。変態っぽいで嗅ぐな」
「えー」


匂いって何。

僕のうなじに顔を埋めて、匂いを嗅ぐるきはキモい。
意味わからんわ、この変態が。


後ろ取られとるから、振り払う事も出来ひんくて。
腕を伸ばして灰皿に吸い終わった煙草を揉み消す。


腹に回っとるるきの腕を解こうと手をかけると、更に抱き締める腕に力入って。
僕の手を逆に握られた。


「ねー京さん。人って結婚相手に選ぶなら匂いが気に入る人がいいらしいですよ」
「何それ」
「匂いって頭で考えるより先に本能的に感じるらしくて。生理的に無理な匂いは、長続きしないそうです」
「へー」
「だから、間違いが起こらない様に、娘が父親の匂いを嫌がるらしいですよー」
「まぁそれを言うなら僕らの関係もどうなんって感じやけどな」
「俺が京さんの匂い超好きなんで全然問題無いでーす」
「意味わからんし」


るきがくっついとる僕の背中。
じわじわとお互いの熱に侵食されて行く。


るきの唇が、僕のうなじに吸い付いて顔を埋められる。
そんな話をしとったモンやから、どうも。

変態くさいるきの行動が、な。


「あ゛ー、うっざい」
「きょ…!」


無理矢理るきの腕を引き剥がして、身体を反転させてるきの方へ向き直る。
るきが僕に腕持たれたまま驚いた顔しとって。


そのまま向かい合わせになって、るきの身体を抱き込んだ。


半乾きのままベッドに入ったるきの髪はもう乾いとって。
るきが拘って買った、えぇ匂いのシャンプーの香りが鼻をつく。


傷んで指通りの悪い髪を梳くと、るきは大人しく僕の胸元に顔を埋めた。
背中に腕を回して。


匂い、なぁ。
そんな動物的な事、人間がするんやろ。

向き直っただけて、結局はるきがまた匂い嗅ぎやがっとった。

煙草の匂いがするー、とか。
何やねん、お前。


溜め息を吐いて、るきの髪からピアスだらけの右耳へと手を滑らせる。
チャラチャラとピアスをイジれば、擽ったそうに笑って顔を上げた。


「い゛…ッ、何するんですかもー!!」
「何となくムカついて」
「何すか、それ」


その笑った顔がムカついて指先で遊んどったピアスの耳を思い切り引っ張ったったら、痛そうに顔を歪めて拗ねた。

はいはい、可愛ないで。


撫でる様にピアスをイジると、更にるきがくっついて来た。


「じゃ、京さんの匂いでチャラにしますから」
「偉そうに言うな糞が。嗅ーぐーな」
「ッあー…本当、癒される。京さん、好き。大好き」
「匂いが、やろ」
「本能でも理性でも、京さんが好きって事です」
「僕は別に好きちゃうけど」
「えー、俺の匂いどうですか?ねぇ、ちょっと嗅いで下さい」
「絶対嫌。無理。離れろ」
「嫌です!俺の癒しの京さんフレーバー」
「お前って…ほんっま気持ち悪いな…」
「…そんな噛み締める様に言わないで下さい。傷付きます」
「るきにそんな繊細な心あったん?」
「もー!」


怒りながら、ぐりぐりと僕の胸元に擦り寄るるき。

何やねんコイツ。


僕はるき匂いとか知らんから。

そんな趣味とかないし。


まぁ、嫌な匂いではないから、るき持論的に本能で嫌ってはないって事やろ。




20120407



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