春風/敏京
「ちょぉ今日風強ない?めっちゃウザいんやけど」
「あー…春だからじゃない?」
「何でやねん」
「季節の変わり目に強い風吹くんだよ何でか」
「何やそれ」
「お天気おねーさんが説明してたけど忘れた」
「アホか」
「でももう春かー。お花見行こうよ」
「花粉症やから嫌」
「ケチー」
今日は早めに仕事終わったから、敏弥と飯食って帰ろうってなって。
タクシー拾う大通りまで少し歩こうとしたんやけど、スタジオ出たらアホみたく風が強かった。
最近は暖かくなって来たから風が当たっても刺す様な痛みはないけど、髪ボサるしウザい。
サングラス持ってくればよかった。
マスクしとるけど、やっぱ花粉飛んどるんか知らん鼻むずむずするし怠い。
隣で喋る敏弥を見ると花粉とは無縁な顔で喋っとるから腹立つ。
人通りが少ない、歩き慣れたスタジオに近い道を歩きながら敏弥の腹を小突くと、笑いながら『なーに』って言うた。
煩い。
お前も花粉症なったらいいんや。
ダラダラ話しとったら、今までで一番強い風が吹いて思わず目を瞑る。
その瞬間、右目の中に痛みが走った。
「うわっ」
「京君ちっさいんだから飛ばされないでねー」
「っさい死ね!目ん中何か入ったし!痛い腹立つ!」
「えっ、マジ大丈夫?見せて」
「あ゛ーえぇから!」
「よくないよ。あーホラ擦っちゃダメだって。見せてってば」
「ちょ、」
何か入って目が痛くて右目を思い切り擦っとると、敏弥の手に遮られて手を止められる。
敏弥に顔を掴まれて上向かされた。
あー糞。
痛くて涙出て来たし。
「早よ取って!痛い!」
「こっち?」
「右目!早よぉ」
「んー」
敏弥は僕の右目の下の皮膚を引っ張って、顔を覗き込む。
敏弥の顔が間近に見えた。
「あ、これかなー。京君、左向いて左」
「んー」
「いい子」
敏弥の指が僕の眼球を優しく撫でて。
痛みの原因を取り除いてくれたんか、さっきまでの痛みが消えた。
はー。
よかった。
痛いん嫌やし。
さっきは痛かったから気にせんかったけど、ここ外やん。
敏弥に顔固定されたまま、じっと見下ろされる。
人がおらん道やけど、誰かに見られたらどうすんねんアホ。
ゴミ取ってもらっただけやけど。
「敏弥、ありがと。そんで離して」
「…おめめうるうるしてる京君て可愛いね」
「…お前眼科行った方がえぇんちゃう」
「ちゅーしたくなる」
「いや、ここ外やから。えぇ加減離してキショい」
敏弥の手を自分の顔から引き剥がす。
一応周り見てみたけど、通行人とか誰もおらんみたいやし、よかった。
「酷ッ!京君俺が気持ち悪いって言うのかよ」
「うん」
「酷い。俺泣くよ?」
「泣いたら」
「もー!京君のバカー!なら舐めて取ればよかった!」
「うぉ、アホな事言うとんなや」
また敏弥に両手で頭をガシッて掴まれる。
いやいやいや。
邪魔なんですけどね、敏弥さん。
「また風で目にゴミ入ればいいよ」
「は、絶対嫌やし」
アホな言葉を吐く敏弥の顔を見上げる。
見上げるんは不可抗力。
敏弥がアホみたいにデカいんがアカンねん。
腹立つな。
睨み付けてもにこにこして、僕を
身長差があるから、そんな近くも無く見る敏弥の顔は、見慣れたいつもの顔で。
そんな敏弥は、外や無かったらキスしたるぐらいかわえぇけどな。
言うたらんけど。
一応、こんな奴でも恋人やから。
「もうほんまウザい。キモい。死ね。離れろ」
「素直じゃないなー」
敏弥の両手首を掴んで顔から剥がす。
「じゃ、帰ってから眼球プレイしよ」
「何それ」
「目舐める感じ」
「…ほじくり出して食ったろか」
「京君の姿が見えなくなるのは嫌だからヤだー」
「痛そうやしな」
「痛いとか言うレベルじゃねー気がする」
敏弥は風で乱れた僕の髪を手で撫で付けて。
笑ってまた歩き出す。
相変わらず風強くてウザい。
敏弥の行動もウザい。
僕は外でいちゃつく趣味無いんで。
密室で2人きりの方がいいやん。
何でも出来るし。
それをさっさと理解しろ言うねん。
アホ敏弥。
終
20120402
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