嘘と意地悪/京流
朝。
仕事行く時間が似た様な時間で、るきと一緒に朝食。
僕より朝早くに起きたるきが作った朝食は、ちょっとだけ手の込んだ和食。
ニュース番組を垂れ流しにしながら、ゆっくりと穏やかな時間が流れる。
「京さん、今日夜ご飯いります?」
「多分」
「じゃ、何か作ります」
「んー」
「京さん何がいいですか?」
「…何でも」
「それが一番困るんですって」
「不味くなかったらえぇし」
「うーん、もうちょっとレパートリー増やしたいんで作った事無いヤツ作ってみたくて。失敗したらすみません」
「不味いモン作ったら帰って来んから」
「えーそれは困ります」
まぁ一緒に住み始めた頃よりかはレパートリーも増えて普通に食える飯作るけど。
つーか、味が慣れたと言うか。
何にしよーとか言いながら焼いた鮭をつつき、垂れ流しのニュースに目を移したるきが「あ!」と声を出した。
何やねん。
「京さん今日4月1日!エイプリルフールですよ」
「……」
「嘘吐かなきゃ」
「…別に嘘吐くんが義務の日や無いやろが」
「じゃ、今からの会話、嘘しか吐いちゃダメって事で!」
「オイ話聞いとんかお前」
腹立つな。
毎年毎年毎年、年がら年中行事ごとに興味持ちやがるるきは、1人で勝手に盛り上がる。
いい加減興味を示すな。
「…でも嘘しか吐いちゃダメって会話成立するんすかね」
「普段からも会話成立してへんのに無理やろな」
「ま、いいや。京さんも嘘しか吐いちゃダメですよー」
「いや、やらへんから」
「京さん大す、…嫌い」
「……」
この野郎。
僕の話聞いてへんくて会話成り立たんのに、余計な事しくさったら訳わからんやろ。
目を細めて、僕の事を『嫌い』と宣ったその唇。
毎年、僕に嘘を吐くと張り切るコイツは、それは逆の言葉で『好き』って言うんは十分にわかる。
でも僕に嫌い言うなんて、えぇ度胸やん。
なぁ、るき。
「…僕は嘘吐いて会話するって言うてへんから、それはるきの本音として受け取るわ。なら出てけ」
「え!?いやいやいや、嘘ですよ!出て行かない京さん大好き!」
「……」
「もう京さん以外好きになれない。京さんが好き過ぎて頭おかしくなりそうです」
「…もうおかしいって」
「あはは。だって京さん好きなんです。愛してます」
「……」
目を細めて笑うるき。
いつもの言葉。
迷う事なく、発せられるモノ。
テーブルに頬杖を付いて、るきの方を見て口元だけで笑う。
「あれ、るきさっき自分は『嘘吐いて会話する』って言うて無かったっけ?」
「!」
「要は僕ん事『大嫌いで出て行きたい』んやな?」
「違…ッ!〜も、京さんの意地悪…!!」
「はは、なら荷物まとめて出て行きやー」
「俺どの道追い出されるんじゃないですか!京さんの馬鹿!」
「あ゛?」
「いえ、すみません」
るきが百面相しながら何か必死に喋っとるんがおもろい。
少し不機嫌そうな顔しただけで、慌てて謝るるきを鼻で笑うと。
拗ねた様な顔をした。
大の男がそんな顔したって可愛く無いで。
「…きょーさん嫌い…」
「へーぇ。嫌い?」
「…嘘。好き。大好きです」
「どっちやねん」
「嘘吐くのやめます。京さん大好きなんで」
「はいはい」
「京さんは?」
「るき嫌いー」
「……。京さんは嘘吐いてるんですよね!」
「やっぱお前会話成り立たへんわ」
アホ過ぎて。
るきが作った味噌汁を啜る。
今はもう慣れた味。
僕のお気に入りの1つ。
本気で出て行けなんて思って無い僕の『嘘』を気付かないるきは。
ホンマにアホでえぇなって思う。
4月1日。
ちょっとは懲りて忘れろや、お前。
終
20120401
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