お返し/京流
仕事から帰ると京さんの方が先に帰ってて。
今日はホワイトデーだったけど、仕事詰めてて何も出来なかった。
せめてもの抵抗に、帰りに寄ったコンビニでスイーツなんか買ってみたけど。
サングラスを外して、リビングに入ると。
テレビを点けないで京さんがソファで煙草吸ってた。
「京さん、ただいまです」
「おー…おかえり」
天井を仰いで煙を吐き出してる京はんに近寄ると、視線を俺の方に向けた。
疲れてる顔。
「京さんお疲れ?」
「んー…眠い」
カバンを置いて、京さんの隣に座る。
京さんは顔を上げて、腕を伸ばして灰皿に灰を落とした。
その手を視線で追うと、テーブルの上に何か紙袋が置いてあって。
「京さんコレ何ですか?」
「知らん。何かくれたん」
「見てもい?」
「どーぞ」
「…あ、これ××店のギモーヴじゃないですか!有名なんですよね、これ」
「ギモ…?何それ」
「生マシュマロです。あー今日ホワイトデーだからですかね?京さん誰かにチョコあげました?」
「何で僕が誰かにやらなアカンの。差し入れでくれたんちゃうー」
「そっかー」
見た目も可愛い四角いソレは、何か女の子が喜びそうな感じ。
こう言うの差し入れすんのって女の子なんだろうなーって思って、他意は無いだろうけど何かモヤッとする。
俺が京さんと食べようと思って買って来たの、コンビニのだし。
糞、バレンタイン同様、ちゃんと手作りすればよかった。
「食うん?ソレ」
「え?あ、まぁ、聞いた事ある有名な店なんで味見はしてみたいなーとは思いますけど」
「ふーん」
京さんの手が俺の方に伸びて来て俺がしてたストールを解く。
先日京さんが付けた、鬱血と噛み痕、首絞めの痕が露になる。
それを見て、京さんは目を細めた。
撮影とかない時期だけど、やっぱ大人としてはね。
あからさまな痕は見せない方がいいかな、と。
俺は京さんに首輪付けられてるみたいで、大好きなんだけど。
「それ、」
「え?」
「開けて」
「あ、食べます?」
ストールを下に落とした京さんは、目で手に持ってるギモーヴを見て。
袋から出して、プラスチックの容器を開ける。
パステルカラーの生マシュマロを差し出すと、京さんは手を伸ばして一口食べた。
「美味しいですか?」
「甘い」
「あー。俺も食お」
「…ん、」
「え?え!マジですか!」
そしたら、京さんが1個手に取って俺の口元に寄せて来た。
予期しない京さんからの『あーん』に、テンション上がって思い切りかじり付く。
「おま、手ぇまでかじんなボケ!」
「痛ッ!ごめんなさい」
「はー…この駄犬アカンわー」
つい京さんの手までかじってしまって、京さんに頭を叩かれた。
でも、また差し出された生マシュマロに笑みを浮かべて。
さっきより慎重にソレを口に含む。
ギモーヴあんま食う機会ねーけど、柔らかいし味も美味しい。
何より、京さんに食べさせてもらってんのが嬉しくて、余計に美味しく感じる。
「るき笑っとってキモい」
「……」
楽しそうに笑いながら、そんな事を言う京さん。
いいです、いつもの事ですから。
何回か繰り返し口元に運ばれて、大人しく食べ続ける。
でもこんな連続で甘い物食ってるとしんどくなって来るんですけど…。
「はー…もうえぇわ、飽きた」
「ご馳走様でした」
「ん」
そう思ってると、京さんは『あーん』するのに飽きたらしく、食べさせられるの終了。
あれ、もしかしてこれ、ホワイトデーのお返しな感じかな。
京さんにしたら、気紛れかもしんねーけど。
俺にしたら、すげー嬉しい事。
「京さんもういらないですか」
「いらん、柔いし食った気せぇへん」
「美味しかったですけどね」
余ったヤツは冷蔵庫に入れておこう。
「美味かったん?」
「えぇ、まぁ」
「ふーん」
「……」
「犬の餌付けみたいやった」
「あぁ、今京さんに付けられた首輪ありますしね」
「アホか」
「あはは」
笑ってると、京さんが俺の首筋を指でなぞった。
一気に鳥肌が立って、ゾクゾクする。
「まぁ、お前は、飼い主間違わんかったら、えぇよ」
「間違えませんよ。京さんの事、大好きですから」
「うん」
京さんが付けた痕をなぞった指が離れて。
満足そうに俺を見て京さんが立ち上がる。
風呂へ入りに行ったらしい京さんの背中を見送って。
バレンタイン時のお返しらしい、京さんの言動に笑みを浮かべた。
明確な応えが貰えなくても、やっぱたまに見せる京さんの行動が好き過ぎる。
俺が夢中にさせられる。
俺が買って来たスイーツは、また明日食べよ。
風呂に特効するべく、ソファから立ち上がる。
大好きな京さんの元へ。
また京さん、チョコ味のコンドーム使ってヤッてくんねーかな。
ホワイトデーですって名目で。
終
20120315
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