敗けは認めません/京流+虎




ルキさんの10周年ライブ。
幕張に呼んでもらって、メンバーと一緒に観に来て。

用意してもらった座席で、開演前のファンの流れを見つつ携帯で時間を確認する。
もうすぐ始まりそうって時間。


「なぁ、あれ京さんじゃね?」
「え?」


隣にいた将に腕を叩かれて顔を上げる。
将の視線の先を追う様に見ると。


スタッフの人に案内される、あの人。
サングラスも何も掛けてないその人は、ルキさんが用意したであろうヴォーカルが良く見える位置。

ドセンの前列に、案内したスタッフに軽く会釈をして腰を下ろした。

俺の座ってる位置より少し離れた斜め前に座るその人は。
後ろから見てもあの人だってわかる、オーラ。

隠す気が一切ない刺青。


確かにあの人。


ルキさんの好きな『京さん』


初めて会った、あの日以来に見た姿だけど、あの日の態度が思い出されて無意識に拳を握る。


あぁ、この人もルキさんのライブ来るんだ。


隣で将が何か言ってるけど、耳に入って来ない。


ルキさんの姿を観に来たのに、どうしても視界に入るあの人の姿が気になって仕方無くて。
同じ家に住んでんのも、身体の関係があるのを見せつけられても。

何処かやっぱり違和感があった事だけど。

あの人もルキさんの事、バンドマンとして見てんだって思うと。
ルキさんの事、全てを網羅してるあの人に激しく、嫉妬した。

















本編が終わってアンコールになると、あの人は席を立って会場を出て行った。
姿を追って、俺も立ち上がる。


「おい虎、何処行くんだよ」
「ちょっと。トイレ」


将に適当な事を言って、あの人が出て行った扉から自分も出る。
そこは、関係者席に繋がる用意された喫煙スペース。


その一角に設けられた灰皿近くに煙草を咥えて火を点ける、その人の姿を見つけた。


ただ漠然とした思いのまま、その人に近寄る。


ルキさんみたいに小さい、存在感だけはある、人。


「お久しぶりです、京さん」
「……誰」


煙草を吸ってるその人に近寄って、挨拶をすると。
俺の姿を捕らえて上から下まで眺めた後、訝しげな表情でそう言った。


わざとなのか、俺の事が眼中にないから忘れたのか。
わかりかねる態度に一瞬表情を崩しそうになりながらも口元に笑みを浮かべたまま。


「アリス九號.のギターをやってます、虎です。前にルキさんと一緒の時に会いましたよね」
「あーせやな。とら、な。何や最近よー名前聞くわ。るきが世話なっとるようやん」
「いえ、そんな。ルキさんにはこちらがお世話して頂いて。色々アドバイスもして頂いてますし」


この人の口調に、前者だった事が伺える。

めちゃくちゃな噂が飛び交うこの人。
根性曲がってんのは本当の事じゃねーの。


「ふーん。るきも偉なったもんやな。こんな後輩持って」
「だってルキさん凄いですもん。ライブパフォーマンスも最高ですし。俺も一ファンなので」


今もアンコール中。
広い会場の中、ファンの求める声が響く。


京さんの目が細められて俺を見て、煙を吐き出して鼻で笑う。


「一ファン、なぁ…。るきの声、良かったやろ」
「え、そりゃルキさんの歌声好きなんで、」
「そっちやなくて」
「……」
「るきの声、良かったやろ。電話越しでも」
「……ッ!」


口の端を歪めて笑うこの人は、あの電話はやっぱりドSだからとかそんな、当て馬的に使われたんじゃなく。
俺への牽制の電話だったって事を知らしめた。


「僕にバレたいん?それとも馬鹿なだけ?」
「…何がですか」
「言わんでもわかるやろ」
「………」
「相手、誰やわかっとん」
「…知ってます」
「ほうか」


その人は途中まで吸った煙草を揉み消して灰皿に捨てた。


「あんまりちょっかい掛けると、るきん事殺してまうかも、僕」
「な、に言ってるんですか」


笑ってそう言うこの人は、俺の脇を擦り抜けてまた会場の方へと入って行った。
腕を掴もうとして、躊躇ってやめる。


バンドやってたら少なからず、人伝で色々噂をされる方だし。
この人は有名と言えば有名で、ライブパフォーマンスも相まって頭イッちゃってんじゃねーかって思ってたけど。

そんな事、言うだけで出来る訳ねーだろ。

大切に思ってんだったら。


ファンの声がアンコールから歓声に変わったのに気付いて、俺も慌てて席に戻る。
ルキさんを観ながら、斜め前に座るあの人の事が気になって仕方なかったけど。


















「お疲れ様です」
「おー、虎。来てくれてありがと」
「ライブ最高でした」
「でしょ」


ガゼットさんのライブが終わって、楽屋に挨拶に来た。
他のメンバーも次々に挨拶をして。

結構人数が多くてもメンバーさんは笑顔で対応してて。
ルキさんも例に漏れず、タオルを肩に掛けて汗を拭きながら笑う。


ステージ上とはまた、別の姿。



「あ、虎も打ち上げ来るよな?」
「はい、是非」
「サンキュ」
「ガゼットさん10周年ですしね。一緒に祝えるの嬉しいんで」
「ふふ、ありがと」


そんな会話をしてると、ルキさんの視線が不意にドアの方へ向いた。
途端、表情が変わるルキさんに自分もその視線を追ってドアの方を見た。


そこには、あの人の姿。

メンバーや、他の後輩達に一気に緊張が走るのが空気でわかる。


ルキさんだけ、嬉しそうな顔してその人の所へ駆け寄った。


「京さん!来てくれたんですか!うわ、マジ嬉しい!どうでしたライブ!」
「お前煩い」
「だって…!」
「黙れ。さっさと着替えろや」
「はい!…あ、京さんこの後の打ち上げ来てくれたりなんかは…」
「……」


ルキさんが遠慮気味に聞くと、あの人はこっちをチラッと見た。


おい他の奴らいる中で、いいのかそんな態度で。
でもルキさんのメンバーさんは知ってるって言ってたし、ルキさんが『DIR EN GREYの京』をリスペクトしてんのは周知の事実だから平気、なのか。


「えぇよ。たまには」
「マジですか!うわ、超楽しみ」
「僕に気ぃ使うなって皆に言うとけよ」
「はーい」


いや、それは無理だろ。
ルキさんの先輩って、俺らからしても先輩だし。

別に俺は崇拝してる訳でもねーし、どうでもいいけど。
一応この世界って超縦社会だからね。


「ルキさんて、京さんと繋がりあったの?なぁ、今のタイミングで挨拶した方がいいよな?ちょっと虎、聞いてる?」
「あぁ、うん。いいんじゃね」


将が何か言ってんのに適当に返事をしながら、ルキさんと話してる腹立つあの人を見つめる。


そしたら目が合って、何となく笑われた様な気がした。


ねぇ、ルキさん。
あの人が嫉妬しないって嘘でしょ。


悔しいから、その事はルキさんには教えてやんねーけど。




20120310



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