甘い、/京流
るきが、アロマキャンドルを買ったって言うて。
テーブルの上に何か設置し出した。
お前さ、明日ライブやろ。
いつもいつもライブ前日はさっさと寝ろってガキみたいな事言われとるやろ事務所に。
るきんトコは僕んトコより管理が厳しいて。
ライブ前は21時には寝ろと言うお達しがあるにも関わらず、コイツが守った時を見た事がない気がする。
『ガキじゃねーんだからそんな早く寝れない』って言うとったな。
まぁ確かに。
何処の小学生やねんって感じやんな。
寝過ぎてもうて顔パンパンに腫らして朝にギャーギャー騒いどったりするし。
時々るきはえぇ匂いのを買って来たりして部屋で焚いたりしとって。
今回はキャンドルの新しいんを買ったっぽい。
僕は僕で、明日オフやし買い溜めとるDVD観ようと思って、リモコンを操作する。
るきはキャンドルを箱から出して、何か調度品の様な形のトコにソレを刺して。
ライターで火を点けた。
「あ、これ甘い。やった、当たりかも」
直ぐ様匂いを嗅ぐるきを犬か、と思いながら後ろ姿を見る。
ソファに座っとる僕は少し離れとるから、最初は何も匂わんかったけどキャンドルが燃えるに従って甘い匂いが鼻についた。
るきはゴミを片付けて、テーブルの真ん中にキャンドルを置いて。
リモコンでリビングの明かりを消した。
テレビの光と、キャンドルの炎のオレンジの光が部屋ん中を照らした。
るきはアングラな雰囲気が好きらしい。
昔部屋をブラックライトにされた時は引いたけど。
雰囲気に満足したらるきは後ろを振り向いて。
這う様にしてソファの上に上がって僕の隣に座った。
「京さん、キャンドル綺麗」
「うん」
「こう言う暗い部屋で炎見てると落ち着きません?」
「んー」
テーブルに設置されたキャンドルに目をやり。
隣にくっついて来たるきに視線を向ける。
数分したら、部屋ん中はキャンドルから発せられる甘い匂いに侵された。
匂いもさることながら、甘えた雰囲気を醸し出するき。
両足をソファに乗せて、背凭れに凭れながら僕の肩に軽く頭を擦り寄せる。
…別にえぇけど。
暗い雰囲気は僕も嫌いやないから。
「京さん何観んの?」
「さぁ…グロテスクやったから買ってみたヤツ」
「うわ、雰囲気に全然合わないですね」
「は、何やねん恋愛物でも観たらえぇんか」
「…そっちの方が想像出来ねぇ…。ってか京さんの買う映画ってホントにグロいから好き」
「発禁モンやしなー」
テレビ画面と炎の灯りだけの部屋。
意外と映画の趣味が合う僕らが観るモンは。
確かに甘い雰囲気とはかけ離れとるモンやけど。
それが自然やろ、ある意味。
リモコンを操作して、再生する。
本編始まるまでのモノローグは映像と音楽だけ。
「でも恋愛物を観る京さんはちょっと見てみたいです」
「何で」
「…想像出来ない、から?」
「どうする僕が恋愛モン観て泣いとったら」
「え、それは写メります!」
「何でやねん、アホか」
「ぁたッ。だってー…」
アホな事回答したるきの頭を軽く叩く。
るきは笑いながら僕の方に擦り寄って来た。
犬みたい。
「でもホラーでもあるやん、恋愛とか」
「そんなの恋人がゾンビで復活とか殺されるとかそんなのじゃないですかー」
「そこがアホっぽくて楽しいやん」
「アホっぽいって…」
「るきどうする。僕に殺されるんと殺される前に他のヤツに助けてもらうんと。どっちがえぇ?」
「そりゃ勿論、京さんに殺される方がいいです」
「ほら、恋愛モンってアホやん」
「アホって何ですか!本心なんですから!」
「はいはい」
えぇ子。
るきの髪を軽く撫でて、始まった映画に集中するべく画面を見やる。
るきも僕の隣で、少しくっついたまま映画を見始めた。
お前明日ライブやろ。
緊張感全くなくて逆にアロマキャンドルでリラックスなんかしとるけど、えぇんか。
頭痛くなる程、甘ったるい空気の中。
似合わない発禁モンのDVDは、逆に僕らっぽくてえぇやろ。
下手な恋愛モンより、よっぽど。
終
20120309
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