張り付いた笑顔で/京流+虎



ルキさんの誕生日にあわよくば食事でもって思って。
前からチェックしてたルキさんの誕生日の日、0時ジャストにルキさんに電話してお祝いの言葉を向けて。

まぁ自分でも、結構押し気味に誘ってたとは思うんだよね。

そしたら、ルキさんの同居人のあの人に邪魔された訳だけど。

あの電話以来、ルキさんはよそよそしいっつーか。

そりゃ、他人に自分の喘ぎ声なんか聞かれたら恥ずかしいんだろうけど。


いつもと違うルキさんの喘ぎ声は、普段よりも甘く掠れる声で。
正直、興奮と嫉妬がない交ぜになって。

更にあの人にムカついたんだけどね、俺。


「ルキさん」
「…あ、虎」


あの日から連絡してもルキさんからの返事は無くて。
意図的に避けられてる感があって、ガゼットさんが使うスタジオで待ち伏せ。


ルキさんの誕生日から2週間ちょっと経って、久々に見たルキさんは俺の顔を見て気まずそうに視線を逸らして。
また俺を見た。

一緒にいた、メンバーのれいたさんに何か話して俺の方に近寄って来て。
俺の腕を手に取った。


「ちょっとこっち来て」
「はい」


れいたさんの見送る中、ルキさんの頭を見下ろしながら大人しく付いて行く。

ルキさんに連れて来られた所は男子トイレ。
誰もいない洗面台の前で、向き合った。


「すみません、いきなり来て」
「あー、うん。大丈夫。俺こそ連絡しなくて御免ね」
「いえ」
「………」
「………」
「………」
「あの、」
「あ、あー…この前、何つーか、御免」


ルキさんは腕を組んで片手は自分の唇を触りながら、斜め下の方に視線をやって。
すげー言いにくそうに謝罪の言葉が聞こえて来た。

ルキさんの言う、この前はあの事なんだろう。


「気持ち悪かったでしょ。御免ね」
「いえそんな、」


正直、ルキさんの一面が見えて興奮しました、なんて本人を目の前にして言える訳ねーけど。

ルキさんは気まずいのか俺と視線を合わせないまま。


「いやでもさぁ、もう超恥ずかしいんだけど俺。あーもー、忘れて、虎」
「気にしてないんで大丈夫ですよ。…あの人と仲良いんですね」
「仲良いっつーか、あの人ドSだから何するかわかんないんだよね。巻き込んでマジ御免」
「ルキさんがそんな謝らなくていいですって」


ルキさんは俺を見てまた謝って。

ルキさんが謝る事でもねーだろ。

あの電話はあの人の牽制。


「俺こそルキさんの誕生日にしつこく誘ってすみません。あの人が嫉妬しちゃいますよね、特別な日だし」
「え、何で?京さん嫉妬したりしねーって」
「は?え、だって、」
「してくれたら嬉しいんだけどねー。飲みとか遊びに行くのとか、普通に『行ってくれば』で終わるんだもん」
「…そうですか」
「うん」
「…それって『愛されてない』って感じません?」
「はは、愛してんのは俺だからね」
「……」


ルキさんの自己評価が低いんだろうか。
あの人の、ルキさんに対する表現が屈折してるんだろうか。


俺へのあの電話は、俺に聞かせる為。

ルキさんの、自分への忠誠度を。


そんな嫉妬まみれなあの人。
俺の想いを敏感に感じ取る程、ルキさんの事が好きなんだろうに。


それとも、自分の所有物に手を出される事が気に入らないだけ?


イメージ的には、後者がしっくり来るけど。


あの人を思ってだろうルキさんの笑みは至極穏やかで。

一方的な愛だけじゃ、そんな穏やかにはいられない気がする。


「あぁ言うのでも全然平気なんで、無視しないで下さいよー寂しいじゃないですか」
「御免ごめん、マジ気まずくて」
「ま、その気持ちもわかります」
「だろ!?もう虎に合わせる顔ねー!って思ったもん」
「あはは。弱味握りましたね」
「おま、先輩を脅す気かよ!」
「どうしよっかなー」


ここは男子トイレ。

あれをネタに脅迫でルキさんにキスや身体を迫っても、それで関係は終わる。

それじゃ意味ない。


「取り敢えず、ルキさん来月ライブありますよね。観に行っていいですか?」
「あぁ、そんなの全然来てよ。皆でさ」
「有難う御座居ます。10周年ですもんね。楽しみにしてます」
「当たり前。最高なライブすっから」


そう言って笑ったルキさんの顔は、やっぱ好きだなって思い直させられる物で。

頭から離れない、俺の知らないルキさんの喘ぎ声と一致しない。


俺にも見せて、そっちの顔。


あの夜、脳内で何度も犯したその顔を考えながら。
ルキさんの口から出る、あの人との話を笑って、聞いた。




20120307



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