閏年/京流
何かよう見たら、いつの間にかるきの髪の毛がめっちゃ伸びとって。
仕事行く前、飯も食って仕事行く準備もして、まだマネが迎えに来るまで暇やったから。
「るきー」
「はーい」
「ワックスとスプレー持って来い」
「あ、はいー。…どうぞ」
「ん。お前座れ」
「え?」
「早よ」
「…ここでいいですか?」
「うん」
同じく仕事行く準備をしとったるきを呼びつけて床に座らせた。
仕事に行くだけで別に出掛ける事もないのに、いつもるきの私服は派手やな。
これが晩飯食いに行く約束とかした日はもっと派手になるし。
ソファに座ったまま、るきの髪をイジる。
自分のイジるより他人の髪やった方がやりやすいし。
気が向いたから。
「え、京さんセットしてくれるんですか」
「っさい。動くな」
「はい!」
「キシキシやなお前の髪」
「頻繁にカラー変えますしね」
るきの指通りが悪い髪を手に取って、逆毛立てながらスプレーを吹き掛ける。
るきは正座をして大人しくして、笑える。
僕に髪をイジられるるきはiPhoneを取り出して写メっとった。
自撮りで。
何しとんねん、コイツ。
「何写メっとん」
「え?京さんが髪セットしてくれてんのが嬉しくて、記念に」
「記念って何やねん。アホか」
「うわ、セット途中の俺の顔ちょー変。ウケる」
「るきはいつも変やから大丈夫やで」
「ちょ、それどう言う意味ですか」
「あーもう。やから動くな言うとるやろ!」
「はい!」
えぇ返事だけして、また正座のまま正面を向くるき。
黙々とるきの髪をセットしてく。
その間、るきはiPhoneをイジっとって。
「あ、」
「……」
「京さん、今日は閏年ですよ!2月29日!」
「ふーん」
「4年に1回のこの日、雪ですよ、雪」
「マジか。怠いな外出たない」
「寒いし嫌ですよね。でも閏年って1日得した気分になりません?」
「ならん」
「えー。そして今年オリンピックですよ」
「観ぃひんし」
「まぁ、俺も観ませんね。ワールドカップとかなら観ますけど」
「お前サッカー観ながら煩いもんな」
「白熱しちゃって」
雪か。
閏年とか言う珍しい日にちやから、雪になってもたんちゃうか。
嫌やわー。
雪とか渋滞やし、マネ迎えに来るん遅くなるんちゃうか。
そのまま中止になってまえ仕事。
そんな事を思いながら、るきの髪の形を整える。
大人しくやられとるるきは、また声を上げた。
「京さん、スカイツリー今日完成ですって」
「ふーん」
「また見に行きましょうよ、スカイツリー!東京タワーより高いらしいし」
「いや、行ったってしゃーないやん」
「記念に」
「何の記念や」
「……閏年の?」
「意味わからんし。はい、出来た」
「マジっすか!有難う御座居ます。うわ、かっけー!」
「当たり前やん」
誰がやったと思っとんねん。
るきはiPhoneのインカメラで、僕がセットした髪の毛を角度を変えながら見とった。
そんで写メった。
いやいや、何写メっとんねん何度も写メんなこのナルシストが。
「よし、れいたに自慢しよ」
「アホか」
セットし終えて呆れながらるきを見て、煙草を咥える。
髪長いるきがセットしたその姿は、服装も相まってえらい軽薄そうな雰囲気になった。
「……お前、ほんまチャラいな」
「…何か髪伸ばしてからよくソレ言われるようになった気がするんですけど」
「そう思うんやからしゃーないやん」
「……。京さんは短くても長くても格好良いですよね」
「はぁ」
写メを撮り終えて満足したんか、るきは携帯をしまって。
ストールを巻いて僕の方へと向き直った。
「閏年だし雪だしスカイツリー完成したし、京さんに髪セットしてもらえたし、超特別な日ですね」
「ほな次のセットは4年後な」
「4年後も一緒にいられるなら全然いいです!」
「は、」
アホか。
自分で吐いた言葉に舌打ち。
その表情は、嬉しそうな顔。
…が、ムカついたからデコピンしたったら痛そうにソコを押さえた。
4年後とか確証全くないけど。
デジャヴを感じる会話を、またしとったらえぇねん。
アホるき。
終
20120229
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