昔から君には勝てない/敏心
『俺と京君、付き合ってるから』
敏弥からの突然の告白が耳に届いて、読んどった本から視線を上げて声がした方へ向く。
少し離れた所で2人ソファに座る京君と敏弥は、必要以上にくっついとって。
敏弥の言葉を、頭の中で反芻する。
付き合っとる?
京君と敏弥が?
直ぐ様、反応した堕威君が色々と2人に聞いとるんを耳に入れながら、また本に視線を戻す。
ライブ中、絡んだりするんはふざけてやし、そんな風に付き合うとか。
男同士で、あの、京君が。
そんな事もあるんやな。
意外過ぎる。
『ほな今日皆で飲みに行こや。祝ったるでー』
『わーい』
『心夜ー。心夜も飲みに行こやー』
『わかったから堕威君煩い』
何やろ。
何でみんな普通に受け入れとんやろ。
何でこんな、モヤモヤするんやろ。
『しーんや、飲んでるー?』
『飲んどる。敏弥酔っ払い過ぎやで』
『だってー嬉しいんだもん!京君と付き合えたし、皆に祝って貰ったしさー!』
『…、はいはい、よかったな』
『んふふー。いいだろー』
『…京君、敏弥引き取ってー』
『えー嫌やー』
『酷ッ!2人共酷いー!』
『はいはい、敏弥大人しいに飲めや』
『わーん、薫くーん』
『はは、敏弥ウザー。京君、敏弥でえぇの?』
『堕威君それ言うたらアカンわ。今思い直そうかと思っとったトコやねん』
『何だよ皆して!絶対ぇ京君と別れないから!』
『わかったから敏弥、声落とせ』
「────…」
目が覚める。
夢を見た。
めちゃくちゃ懐かしい、夢を。
あの頃はただ、男同士やのに何しとん、とか。
幸せそうな2人を見て、嬉しい反面、嫌悪感もあったけど。
男女のカップルよりも障害も弊害もある筈やのに。
2人は、とても幸せそうで。
気付いたら目で追っとった2人。
否、途中から『2人』と言うよりも、敏弥だけ。
2人を見て苛立つ感情があったんは、多分もう。
僕も敏弥の事が好きやったからやろう。
でも敏弥が選んだ相手は京君。
女相手やったら、諦めも付いたんやろに。
鳥肌が立った肌を手で擦る。
タイマーセットしとった暖房はもう切れとって。
裸のまま寝てもうたから、少し肌寒かった。
また肩まで布団に潜り込む。
暗闇隣を見ると、敏弥の無防備な寝顔が目に入った。
僕の誕生日やからって、一緒に過ごした日。
そう言えばコイツは、京君と付き合っとった時もイベント事には煩いヤツやった。
今は大人になったからか、京君相手に煩かったんか、そんなに言うて来んのに。
たまに。
こう言う風に、僕の誕生日を覚えとって何でもない様に一緒に過ごす時があると泣きたくなる。
愛しい。
この昔と違う。
冷徹な、悪魔の様な敏弥が。
「……好きや、敏弥」
京君の事を話す敏弥は、怖い。
幼い寝顔に、指を這わせる。
欲しかった。
けど京君のモンでも、見とるだけで良かった。
敏弥のあの、京君を見る優しい笑顔。
僕は敏弥の表情の中で、それが一番好きやった。
今はもう、面影は無い。
「…ッ…」
「───なに心夜、寝ないの」
「…寒くて起きてもうたん」
「あぁ、暖房つけてよ」
「うん、」
敏弥の顔を優しく撫でよったら、敏弥の目が開く。
から、一瞬ビビる。
暖房つけろ、なんて言うても。
敏弥の腕は僕の身体に巻き付いて来た。
お互い裸で、素肌から感じる体温が温かい。
敏弥の腕の中、大人しくおさまる。
離したくない熱。
キツくキツく、抱き締める。
なぁ、もうとっくに、気付いとるんやろ。
僕の気持ち。
敏弥が欲しい、何もかも、全部。
今も昔も。
京君が羨ましくて仕方が無い。
終
20120224
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