幻想を抱く夢/京流



何も無くしたあの頃とは違う。

でも、どうしても拭い切れない、不安感。

僕の誕生日なんか、来なくてえぇのに。

何もかも、思い出したく無い。


無意識にシーツの上を滑った腕が、何も捕らえなかった事にうっすらと目を開ける。


僕んちとは違うシーツの色。
此処は何処や。


一瞬、昔の事を思い出す。


知らない適当に選んだホテル。
まだ、1人で暮らしてた僕の部屋。

血まみれで目覚める、僕の左腕。


「……ッ…!」
「うわっ、京さんおはようございます。まだ寝てても大丈夫な時間ですよ」
「…るき…」
「朝ご飯、ルームサービス出来ますけど、何時ぐらいがいいですか?」
「…お前…どっか行くん」
「え?」


ガバッと起き上がると、僕の姿を見つけてビックリした表情で僕を見たるきがおって。
笑って挨拶するるきは、昨日とは違う服をきっちりと着込んどった。


過去の姿が重なる。
あん時のるきは、こんな風に穏やかに笑わんかったし。

青アザばっかの顔はひきつっとって、僕と目を合わさんと着替えて帰って行った。

金と苛立ちだけを僕に残して。


此処は昨日、僕の誕生日やからってるきに連れて来られたホテルの一室。
アホみたいに不釣り合いな、重厚な調度品がある部屋。

夕べとは違う、窓ガラスから見えるのは晴れた東京の空。
ウザいくらい明るい。


「えっ、と、俺、京さんより仕事行く時間早くて…昨日着てた服も家に持って帰ってからスタジオ行こうかなって」
「……」
「京さんも仕事ですよね?XX時に出れば仕事場までタクシーで間に合うんで…服、俺が昨日買って来たのがあるんで着て下さ、」
「るき、こっち来ぃ」


膝を立てて、そこに肘を付いて頭を掻く。
話しながら準備しとるるきを呼び付けると、るきは嬉しそうに僕のおるベッドに近寄って来た。


るきがデカいベッドに乗り上げて、ほぼ真ん中に寝とった僕の傍に寄って来る。


「え?うわ…ッ」


そのるきの身体に腕を回して引き寄せ、一緒にまたベッドに沈む。
るきはバランスを崩して、僕にされるがまま。


素肌の僕と、きっちり服を着込んだるき。


「……京さん?」


るきが不思議そうな声色で、僕の名前を呼ぶんを無視して。
るきの上に伸し掛かっとる僕をるきは腕を背中に回して抱き付いた。


別に、今までも地方のライブで勝手に来やがってホテルに呼び付けてヤッたりしとる時もあったやん。


でも、なぁ。
るき。


こんな豪華な部屋も、おめでとうの言葉も、いらへん。


ただ好きって、僕の傍から離れんで。


イベント事好きな所とか、何も言わん僕の事を好きって言う所とか。
アイツと重なって、僕は怖い。


酷い事して離れていくお前を『やっぱりな』って思いたい気持ちと、信じたい気持ちが混ざって。
まだ、素直にお前を愛してやる事が出来ひん。


「…どうかしました?」
「───…別に」
「…え、え、ちょ、京さ…、俺、仕事…っ」
「…煩い」
「京さ、待って…!」


首筋に吸い付くと、るきの香水の匂いがした。
きっちり着込んだ服を脱がしにかかると、焦ったるきが僕の腕を掴む。

それを無視して抵抗する手を払い除けてシーツに押さえ付けると。
るきの戸惑った視線と絡み合った。


「京、さん…」
「るき」


るきの柔らかい唇に吸い付いて。
段々と深く、甘噛みしていく。


昨日の劣情を思い出して、またコイツを求める。

僕に逆らわない、僕のコイツを。


僕に嫌な事を思い出させるんも、るきで。

忘れさせたんも、るき。


何も聞かず、何も知らんまま。


僕の傍におらなアカンねん、お前は。




20120221



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