気持ちは父親/京流+薫




ちょっと暖かくなったと思ったら、また寒くなって。
しかも雪って何やねん、雪って。

交通機関は渋滞なるし、仕事に遅れそうになるし何もいい事がない。
雪で喜んで遊ぶような気持ちは、とうの昔になくなったし。

逆に子供心を忘れんかったら、この状況も楽しめたり感動したりするんやろか。

まぁ、何十回目の誕生日を迎えた自分には程遠い事やけど。


そんな事を思いながら、溜め息を吐いて喫煙所で煙草を吸う。
まだ時間はあるし、メンバー全員集まってない。

雪やからもしかしたら遅刻して来る奴がおるかもしれんなぁ。


備え付けの灰皿に灰を落としながら携帯を弄っとると、喫煙所の中に京君が入って来た。
何や珍しい、遅れて来るんかなって思ったのに。


「おはよう、京君」
「…はよ」
「眠そうやん。昨日ルキ君どどっか行っとったん?」
「あー?何で」
「何でって、昨日京君誕生日やったし、ルキ君が何かせん訳ちゃうやろ」
「まぁ、せやなぁ…」


眠そうな声でゆるゆると返事しながら京君は俺の向かいに座って煙草を取り出して火を点けた。


「あ、そう言えばるきが薫君に『誕生日おめでとうございます』って言うとったで」
「ホンマ?有難うって言うといてや」
「は、何で僕が伝言せなアカンのめんどい」
「はは、そう言わんと」


京君は足組んで視線を逸らしながら煙を吐き出した。

やって何やかんや、ルキ君が言うた事を俺に伝えてくれたやん。
京君さりげなくそう言うトコ優しいしな。


「ルキ君元気?」
「あーうん。アホみたいにな」
「そうなんや」
「もうアイツのする事全てがアホやで」
「何やの、それ」
「昨日も僕の誕生日やからってホテル連れて行かれたわ。夜景が見える部屋、風呂には薔薇、ルームサービスにシャンパンとケーキ」
「え、嘘やろ」
「ホンマホンマ。飯食うだけやと思っとったから、呆れたわ」
「はー…ルキ君て結構キザなんやな」
「せやな。わざわざ次の日の僕の服まで買って来とったし」
「え、じゃぁ今着とんてルキ君セレクトなん?」
「……」


嫌そうな顔して俺を見て、また視線を逸らしたから、そうなんやろな。


ルキ君がなぁ。
何や本命の女を口説く手段みたいな感じの事するんやな、あの子。


会った時は普通の好青年みたいな感じやったけど。

京君とルキ君が暮らし始めて何年か経っとるけど、今だに趣向を凝らしてそんな事をするルキ君は。
京君の事がホンマ好きなんやなって思えて、ちょっと安心。


「えぇやん、そんな事滅多に体験出来る事ちゃうで」
「…何が可笑しいねん。そんなん体験せんでいいわ。高層マンションに住んどるから夜景も大して変わらんし」
「そらしゃーないわ」


悪態を吐く京君に笑い掛けながら、自分もルキ君を見習って少しは彼女にサプライズしたろうかいなとも思う。
忙しいって理由でおざなりになっとったりするしな。

ルキ君も同業者やのに。


「…別にそんな事せんでえぇねん。僕ん事、裏切らんかったら」
「……ほうか」


視線を落として呟いた京君。


まぁ俺としても、京君の誕生日の時は色々情緒不安定になっとったんが。
ルキ君と暮らしてあんまり発作的に不安定にならんようなって来たから。

ルキ君にはずっと傍におって欲しい気持ちもあるし。
何も知らんルキ君が時々、京君の触れたらアカン部分に触れて、京君が不安定になるんもどうかとも思うし。


どうしたらえぇんやろな。


「…まぁ、あれや。ルキ君も京君の事好きやからそんな事したいねんて。気持ち汲んだり」
「……ん」


煙草を灰皿に落として消して、立ち上がる。
京君の傍に立って座っとる京君の頭をぽんぽんと叩く。


大人しくそうされる京君。

いつもならガキ扱いすんな、とか怒るのにな。


でもまぁ、京君の誕生日の次の日が俺の誕生日やし。
やっぱ、いい報告聞きたいやん。


似合ってんで。
ルキ君がセレクトしたその服。

それを着とる京君も、かわえぇトコあるんやから。


幸せになってくれたらって、ずっと思っとるよ。




20120217



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