その後/京流
れいたを巻き込んで作った本命チョコは、結局ノーマルなモンにしたんだけど。
メッセージ書きまくってね。
それだけじゃ寂しいから、上手く出来たチョコケーキも作ったんだよね(メンバーにも好評だったし)。
俺は京さん相手じゃなきゃここまで女々しい事しねーし、する必要もない。
「京さん、背中流します」
「うわ、来た」
「うわって何ですか」
「お前風呂一緒に入りたいならいきなり来んと入りたい言えや」
「言ったら一緒に入ってくれます?」
「それはわからんけど」
「えー、じゃこれからも風呂に特効しますよ」
「嫌やわぁ、コイツ」
「バレンタインなんで、チョコフレーバーのソープ買ったんすよ」
俺が作ったメッセージ入りのチョコ食った京さんが、風呂に入ったのを見計らって自分も風呂場へ。
バレンタインだからって最近は色んなモン売ってて。
チョコフレーバーのボディーソープ。
何となく買ってみて、開けてみたらマジでチョコの香り。
これは京さんの背中流すしかないだろって事で。
京さんが髪洗って流してる時に浴室に入って。
髪洗い終わって濡れた髪を掻き上げながら京さんは眉を潜めて俺を振り返った。
湯気が立ち込める中、京さんの身体中に彫られた刺青は目立つ。
いそいそとスポンジにチョコフレーバーのソープを垂らして、京さんの後ろに座り込む。
すると結構、チョコの香りが浴室に広がった。
「うわ、すげーこれ結構チョコの匂いしますね」
「甘ったるいわ」
「じゃ、流しまーす」
「ん」
泡立てたスポンジを京さんの背中に滑らせた。
チョコフレーバーだからって泡までチョコ色じゃないっぽいから、残念。
背中全体に千手観音の絵が描かれた泡塗れの背中。
憧れか愛情か執念か、必死に追い掛けて来た京さんの小さくて大きい背中。
それが目の前で、一緒の風呂入るまでやってんのに。
やっぱ京さんの口から、好きだの愛してるだの、そんな事を一切聞けない事が少し寂しい。
そう思うのは、人間て欲深いなって思う。
一緒に暮らせって言われただけでも、すげー嬉しかった筈なのに。
王道でバレンタインに告白したのに、失敗だったかなー。
京さん、そう言う形式に拘るの嫌いそう。
『付き合う』も『好き』も『愛してる』も何もなかった俺達の関係。
今何年も経っても時々不安。
ねぇ、俺、自惚れてもいいの?
京さんの背中を流す手を止めて、泡だらけの背中からぴったりくっつく。
「…なん」
「何となく?」
「…そー」
風呂場なのにチョコレートの甘い香りと、肌が密着してる京さんの熱と。
一緒になって溶けてひとつになったらいいのに。
どうしたら、この人の全てをモノに出来るんだろう。
好き過ぎて、どうしようもない。
「…京さん」
「んー?」
「好き」
「…知っとる」
「もっと知って」
「……」
俺が京さんにハマッて抜け出せない事。
疑う余地がない程、京さんが好きな事。
言葉より行動が饒舌な京さんと、言葉で伝える俺。
似てねーな。
だからお互い、愛を欲しがるんだよ。
違う形で。
「…あ、京さんチョコレート繋がりで、チョコレート味のコンドームも買ったんですよ」
「は、」
「だからそれ付けてしましょうよ、チョコレート味!」
「食う気か」
「ある意味」
「キショ。親父臭い事言うな」
「だって京さんのがチョコ味とか美味しそう」
背中から回した腕を、京さんの胸から腹筋、下半身へとなぞる。
そしたら京さんに制止させられた。
「待てぐらいせぇよこの淫乱」
「あはは」
振り向いた京さんに、また後ろからぎゅっと抱き締める。
バレンタインの日に、こうしていられるだけでも幸せ。
今年もチョコ塗れなバレンタイン。
でも告白の返事がなかったのは、ちょっと寂しい。
終
20120215
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