王道バレンタインデー/京流
毎年毎年、この時期は変な飯作りやがっとったからそれで気付くんやけど。
今日は普通にいつも通り(とは言い難く少し豪勢やった気もする)の飯やったし、るきが何にも言わへんし。
僕にしたら何にもない普通の日やったんやけど。
何なんやろか、この状況は。
学生時代とか何や青臭いモン思い出すわ。
飯食ってリビングでDVD観ようと、新しく買ったヤツをセットして。
リモコンを持ってソファに座った時。
るきが何や両腕を後ろにして、僕の傍に立っとったから何やと思ってるきを見た、ら。
「京さん好きです受け取って下さい」
「は?」
って。
何か箱みたいなん差し出されて告白された。
るきが僕の事好き言うんはいつもやし、別に改まって言う事でもないし。
この箱なに。
「え、何お前気持ち悪…」
「ちょ、本気で引いた顔しないで下さい。今日バレンタインです。好きな人にチョコあげて告白する日ですよ」
「あぁ」
るきイベント事好きやもんな。
「今日はあの変な飯ちゃうかったやん」
「やー、たまには王道のバレンタインをやってみようかと」
「あっそ」
ま、くれるモンは貰うけど。
事務所に大量に届くチョコは手紙以外は持って帰らんし。
るきが差し出した綺麗にラッピングされた箱を受け取ると。
るきが嬉しそうに笑う。
「それ、俺の手作りです」
「へー怨念混ざってそう」
「愛情です」
「返品」
「受け付けません」
「チッ」
いつもチョコ付けたり変な飯の後は既製品のチョコくれたりしとるけど。
今年は作ったんか。
女子か。
キモいな。
不味かったら承知せんで。
そう思いながらラッピングを解いて箱を開けると。
白やピンクでデコられたチョコが目に入って思わず箱を閉じた。
「え、これホンマ手作り?」
「そうですよー。やっぱメッセージ入りにしたかったんで普通にチョコ溶かしてデコりました。あ、ちゃんとチョコケーキも冷蔵庫にありますから」
「…これ食えと?」
「はい」
「……」
どう見ても見た目メルヘンなチョコを見て、溜め息。
るきが細かい作業するん好きなんはわかった。
けど、やっぱ怨念こもってそう。
『好き』だの『愛してる』だの、書いとるチョコを見下ろす。
『京vルキ』とかあるんやけど、自分で書いとって恥ずかしくないんかお前。
「そして俺と付き合って下さい、京さん」
「はぁ?」
付き合ってって、何それ。
訝しげに、るきの方を見ると。
予想に反してるきは結構真剣な顔しとって。
一瞬固まる。
「…俺が京さんを追い掛けて追い掛けて、一緒にこうして時間を共有出来るようになって俺は今も幸せですけど。言ってなかったなって思って」
「……」
そう言えば僕は。
こいつに『好き』だの何だのの類いは言うた事がない気がする。
この僕が一緒に住まわせてやっとんやから、言わんでも察しろって思っとるけど。
『付き合う』って形式染みた事はもうしてない。
何年も。
るきから視線を逸らして。
るきが手作りした言う、アホな文字が書かれたチョコを手に取る。
王道的なバレンタイン、なぁ。
「るき」
「はい」
「こっち来い」
「はいっ」
僕が呼んだら、棒立ちやったるきが嬉しそうに僕の隣に座った。
るきを手放す事は考えた事ないけど。
るきの欲しがっとる言葉を言えへん僕がおる。
るきの様に、真っ直ぐ感情を向けるのは出来ひん。
「キモい事すんな、アホ」
「ん…っ」
手に取ったチョコをるきの口に突っ込んだ。
るきは反射的に食ってもうて。
「ちょ、俺は京さんに食べてほしくて作ったんですよこれ!」
「あぁ、毒入りちゃうかったんや」
「俺毒味ですか!」
「うん」
るきが作ったチョコを一粒口に運ぶ。
普通に美味い。
まぁチョコやしな。
「美味しいですか?ねー京さん」
「煩い」
「ケーキも食べます?」
「…明日な」
るきが食ったチョコには『愛してる』の文字。
終
20120214
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