虚勢/京流
ソファに座って煙草を吹かす。
その足元にはさっきまで喘ぎ声からかけ離れた悲鳴とも取れる声を上げよった、僕の玩具。
意識飛ばしやがって役立たずが。
煙を吐き出しながら素っ裸で床に放置された金髪のガキを見下ろす。
殴ったり蹴ったりしとるから、身体は疎らに青アザが散っとって。
色白やし気持ち悪い。
そのまま外に放り出すんも、意識の無い奴運ぶん絶対めんどいから嫌やし。
足で頭蹴ってみても、反応も示さず無言のまま。
人形みたい。
まぁ、人形っつーか、玩具やからあながち間違いでも無いわな。
ソファの前に置かれたガラステーブル。
その上のシンプルな茶封筒の、ソレ。
腕を伸ばしてソレを手に取る。
コイツが持って来た金は、今回も厚かった。
最近、パクリだの何だの噂んなるぐらいになったコイツののバンドでも。
新人でこんだけの金をコンスタントに持ってこれる筈が無い。
どんな手を使って、なんて考えんでもわかる。
単純に女を使えばえぇだけなんやから。
金額は決めてへん。
コイツが持って来る、僕の値段。
溜め息を吐いて煙草を灰皿で揉み消した。
そんなに僕と繋がりたい?
お前がこの金を手に入れとる手段で僕のトコ来て。
何がしたいん。
こんな、何も手に入る訳が無い事を。
金で人の気持ちが買えるなら、いくらでも出したるわ。
封筒を逆さまにすると、気絶しとるこのガキの上に札が何枚も散った。
なぁ。
ズルない?
こんな金で、お前は『憧れの京さん』に会えるんやから。
「おい」
僕が手放したモンは、もう戻って来んし金でも買えない。
「起きろ」
札と血と精液に塗れた、汚い身体を蹴る。
反応が薄い。
それにイラッとした。
「起きろ言うとるやろこの糞ガキ…!!」
「……ッ…ぁ゛…!?」
立ち上がって腹を思い切り蹴り上げたったら、ビクッと身体を跳ねさせて意識を覚醒させた。
そのまま僕を見上げる目は、さっきと同じで畏怖のまま。
ムカつく。
イライラする、コイツを見とると。
「何やその目。あ?」
「ごめ…ッ、なさ、」
「煩い」
「…っ」
コイツを見下ろしながら、仰向けのコイツの喉を踏みつける。
ちょっと力入れたら苦しいんか、両手が僕の足首に絡んで来た。
水ん中から出された魚の様に口を動かすコイツは無様で。
その姿を見ても、何も満たされ無い。
あぁもういっそ。
コイツの喉を潰したらどうやろ。
所詮バンドマンが好きな女共は、歌えんくなったコイツの貢ぎにとどまるとは思えへん。
したらもう、僕ん所に来れへんやろ。
自分歌われへんのやったら、僕の事を尊敬だの何だの、言わへんくなるやろ。
憧れだの糞食らえや。
そんな言葉はいらん。
ライブだけの僕を見て、ようそんな言葉が吐ける。
現に僕は皆が言う『憧れの京さん』で捨てられた。
たった一人、愛されたかっただけやのに。
「吐き気がする」
「……ッ、ぅあ…!!」
そのまま、コイツの頭を蹴る。
身体が転がる様を見下ろしながら、自分の思いに嫌悪する。
アイツは僕を裏切って捨てた。
何もかも、全て嘘になった日常。
切り刻んだ左腕が痛い。
「きょ、さ…」
「……」
今の現実は何。
僕も好きやった。
大好きやった。
好きって、そう、言われた。
なら何で離れてったん。
「…好き、で、」
「…ッ煩い…!」
「い゛…っ」
ムカつく。
死ね。
何も聞きたく無い。
嘘になるなら、何も聞きたく無い。
無抵抗なコイツに馬乗りになって。
髪を引っ掴んで床に叩き付ける。
鈍い音が響いた。
コイツ死ぬかも。
そしたら僕もう、歌わんでえぇかなぁ。
「…ッは、はは…」
もうおかしい。
自分もコイツも、何もかも。
また無反応になった玩具。
血だらけの左腕。
両腕で顔を覆って、天井を仰ぐ。
なぁ、お前は何をしたら僕から離れる?
アイツの様に。
敏弥の様に。
好き言うなら、僕のやる事、全部受け止めろ。
否定する権利なんて与えはしない。
終
20120202
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