好きな人は恋人付き/京流+虎




スタジオ入りしてリハの休憩中。

俺はどうしても昨日の出来事が忘れられなくて、あんま寝られなかったし。

仕事も手につかねーしで、ホントどうしようもない。


ルキさんに、恋人がいるかどうかの確信が欲くて。
それを理由に諦め切れるかと思ったけど実際は逆で。


ルキさんの恋人が男なんだって知ったら、余計に諦め切れなくなった。
性別は関係ないんだなって。


ただちょっと、相手が悪い気がするけど。

実際俺は、先輩ってだけでルキさんみたく崇拝も尊敬もする対象じゃないから。
奪えるなら、奪いたいんだよね、あの人から。


ソファで休憩中だった自分のバンドのヴォーカル、将の隣に座る。
こいつはヴォーカル同士、ルキさんと撮影とかしてたんだけど、どうなんだろ。


「なぁ」
「ん?」
「ルキさんの事何か知らね?」
「ルキさんって、あのルキさん?」
「そう。ガゼットのルキさん。昔一緒に撮影してたりしたじゃん」
「んー。結構前だし、話はしたけどそんな仲良くないよ。寧ろ今なら虎の方が仲良くない?」
「やっぱあの人、プライベートは謎だよな…」
「何、そんなの知りたいの?」
「ちょっとね」
「うーん…ルキさんって今超真面目じゃん。前に女の子が言ってたよ。昔は貢ぎだったら簡単に繋がれたけど、ある時、全切りしてから全く繋がれなくなったって。今飲み会でもレアらしいし。顔見た事ないって言ってた」
「そっかー…今の噂とか聞かない?」
「今ー?そうそうガゼットさんと接点ないし、特に何もねーけど…マジどしたの、虎」
「いや、ちょっとね」
「あ、でも昔スタッフが話してたのは聞いた事ある。あの人一時期生傷耐えなかったって」
「…へぇ、何で?」
「そこまではわかんないけど」
「そっか。サンキュ」


ちょっと訝しげな将に笑って誤魔化して立ち上がる。


確かにルキさんが、あの人と一緒に住んでるなんて噂にも上がって来なかった事。


女関係全切りしたって。
あの人と付き合ったから?


女だったら、切られんのか。
こっちは男でバンドマンで、好都合。

先輩を慕う後輩なんて、よくある事だし。


生傷耐え無かったって。
何してたんだろ。

元ヤンでしたってオチなら今のルキさん見てると想像出来ない。


そんな事を考えてると、携帯が鳴った。

受信メールはルキさん。


『今時間ある?一緒のスタジオ使ってんだけど、抜けられる?』


そう書かれたメールを読む。
幸い、休憩中だし。

多分昨日の事なんだろうなと思う。


大丈夫ですよって返信すると、奥の自販機に来てって書かれてたから。
ちょっと出て来るって断って、ルキさんに指定された場所に向かう。


自販機の前に行くとルキさんが立ってて。
俺の姿を見つけて手を上げた。


昨日も思ったけど、私服派手だなこの人。
お洒落で派手だから、よく目立つ。


「御免な、仕事中に」
「いえ、休憩中だったんで大丈夫です」
「そっか。昨日はすぐ帰れた?」
「はい、すぐタクシー拾えたんで。ルキさんは二日酔い大丈夫ですか?」
「何とかね。これ、昨日のタクシー代。払ってもらってたのに忘れてて御免」


そう言ってルキさんは封筒を差し出して来た。


「えっ、いいですよそんな、」
「いや、俺の方が先輩だしね。後輩に払わせたらまずいでしょ」


だから受け取ってって押し付けられた封筒を受け取る。


「…有難う御座居ます」


律儀と言うか。
やっぱ、当然だけどルキさんの中では『先輩後輩』なんだな。


「えーと、それで話があるんだけど…」
「…はい」


ルキさんが視線を反らして首の後ろを掻く。

多分、昨日俺が見た光景なんだろう。


「昨日の事なんだけど、」
「ルキさんて、あの人と一緒に暮らしてるんですか?あの人、DIR EN GREYの京、さんですよね?」
「うん、そう。一緒に暮らしてるよ」
「…ルキさんの言ってた、大事な人?」


ルキさんの言葉に被せる様に聞いて。

ルキさんはムカつくぐらい、明後日の方向を向いて笑みを浮かべた。
そして俺の顔をじっと見つめる。


「そう、凄く大事な人。隠してて御免ね。あんまり人に言ってねーの。メンバーは知ってるけど」
「そう、ですか」
「京さんに迷惑かかるの嫌だから。やっぱ男同士だったりするし」
「……」
「あ、虎男同士とかそんな話平気?気持ち悪くね?」
「や、驚いたけど大丈夫です」
「そっか。よかった。…で、昨日も言ったけど京さんとの事、他の人に言ったりしないで欲しいなって思って」
「言いませんよ。プライベートな事ですし」
「ありがと。こう言う事って、やっぱ気持ち悪がられたりしら嫌だなって心配で」
「あー…」
「俺はいいけど、京さんがそんな事思われんのショックだし」
「…好きなんですね、あの人の事」
「うん、大好き」
「……」


間髪入れずに答えたルキさんは、本当にあの人の事が好きなんだろう。

憧れの人だから?


ルキさんが今繋がれない理由は、あの人といるから。
他に必要がない程、あの人が本命だって訳か。


「…あんまり人に言えなかったらストレス溜まりますよね。俺で良ければ愚痴でも聞きますよ」
「マジで?ありがと。メンバーも飽きれるぐらいだけど」
「どんな内容なんですか、それ」


笑って言うルキさんに、自分も笑う。

…笑えてる筈。


「わかってくれてありがとね。あ、珈琲飲む?奢るし」
「あ、じゃあブラックで」
「了解」


話をして、スッキリした顔になったルキさんが俺に背を向けて財布を取り出して自販機に金を入れる。

その背中をじっと見つめて。


どうやって落とそうか、思案する。


取り敢えず。
『先輩後輩』の立場を、有効活用させていただきます。




20120129



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