寒空の下、恋人達/敏京
「寒い。やっぱタクシー拾おうや無理」
「京君がたまには歩きたいって言ったんじゃん」
「うん、血迷った。無理」
「ここタクシーねーから。大通り出たら拾えるから我慢してね」
「チッ」
オフの日。
今日は一緒に買い物行こうって言ってて。
でもまぁ、せっかくのオフだからお互い寝まくった訳で。
だから出掛けんの夕方になっちゃったんだよね。
まだ店は開いてるし、買い物してご飯食べよーって事で。
着替えて出掛けてるんだけど。
京君は寒くて肩を竦めながら文句言ってる。
家までタクシー呼べばよかったかなーとか思って苦笑いしながら、自分がしてるマフラーを外す。
「俺のマフラー貸してあげるから」
「いらん。敏弥寒いやん」
「もー可愛い事言っちゃってー。ほら、ちゃんと巻いて」
「オカンか」
「違います。恋人です。あったかい?」
「…敏弥の匂いする」
道端に立ち止まって京君の前に立ちはだかる。
マフラーを巻いてやると、京君の口元が隠れて。
すん、と鼻を鳴らす京君は超可愛い事言ってる。
今すぐ抱き締めたい。
可愛い。
「ッもー、京君外で可愛い事言わないで。今すぐ抱き締めたい」
「……」
「無視!?」
「敏弥、煩い」
「酷い…!」
そんな言い合いをしてると、京君が別の方に向いてて。
京君の視線の方向へ、自分も目をやる。
近くにある公園のベンチで、学校帰りであろう男女のカップルが座って話をしてるみたいだった。
付き合いたてなのか、まだ付き合う前なのか、少し距離があるそのカップルは見てて微笑ましい程。
「なーに、気になる?」
「別に」
「俺らも負けずにベンチで愛を語り合う?」
「は、何でこんな糞寒い中そんな事せなアカンの」
「寒い中、あぁして話出来るのって若さだよねぇ」
「せやな。アイツらも大人んなったらラブホ行ってヤッとんやろな」
「青姦と言う手もあるよ京君」
「嫌や寒い。この変態」
「あは。寒くて勃たなかったらショックだよね」
「お前は大丈夫なんちゃう?変態やから」
「試してみる?」
「絶対嫌」
夏しか青姦した事ないもんね。
外ですんのも興奮したから、またヤリたいな。
京君の頭を撫でながら、男女のカップルをまた見る。
いいね、初々しい。
良くも悪くも、俺らは大人になってしまったから。
京君とあぁ言う風に学生生活過ごせたら楽しかっただろうなー。
京君と一緒に見てた桜は、今は葉がついてない枯れ木で。
また今年も京君と一緒に桜見えるかな。
そしたら俺らも、ベンチに座って愛を語り合おうか。
そんな事を思ってると、京君はその2人から視線を逸らして歩み始めた。
俺の手から、髪の毛の感触が抜ける。
「はー…寒い。僕は大人やからベンチで話するよりもラブホ行く方がえぇ」
「あら、俺は京君とベンチでラブラブするのもいいと思ったけど」
「人目に付くトコは無理」
「人目に付かなかったらラブラブしていいと」
「な。ラブホにおる方がえぇやろ」
そう言って口の端を上げて笑う京君。
可愛いな、言ってる事が。
「じゃぁ久々にラブホ行く?」
「嫌や。買い物して飯食って家帰る」
「ラブホがいいって言ったじゃん!」
「あれは話の流れでやろ。2人きりになるトコやったら家の方が楽」
「我儘ー」
そんな所が好きだけど。
吐く息が白い寒空の下。
俺らは男女のカップルがするみたく、手も繋げないけど。
俺のマフラーに顔埋めて、隣で歩く京君がいるだけで。
幸せだと感じる程、京君の事が好き。
デートして、2人きりでラブラブしようね。
大人になった分、純粋さが失われて身体に饒舌になっちゃうけど。
好きって気持ちに変わりはないから。
終
20120126
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