最強な恋敵/京流+虎




都会独特のネオンが光る中。
タクシーで酔い潰れたルキさんから聞いた自宅へと向かう。


この前、打ち上げ出られなかったお詫びにって。
律儀に誘ってくれたルキさんに断る理由も無く喜んで飲みに行った。

2人きりで、最初はお互いのバンドの事とか音楽の話してたけど。
アルコールが回って来てプライベートな話まで。

俺としてはルキさんの事、もっと知りたかったから。
はぐらかされたりしたけど付き合ってる人がいるのか、好きな人がいるのかを聞きたかった。

話の内容からして、いるっぽかったから。
確信が欲しくて。

俺が納得出来るんだったら、この人の事を諦めなければならない。


タクシーの中、隣で窓にぐったりと寄り掛かるルキさんを眺める。
酔いが回れば饒舌になるかと思って、あの手この手で飲ませ過ぎた。


フラフラになったルキさんを、自宅まで送る事になった今。

正直、1人で帰れないって、俺としては好都合。
送り狼ではないけど、ルキさんのプライベートな一面を見れる気がした。


ルキさんから聞き出した住所とマンション名の所に着いたらしいタクシーに、料金を払って。

気分が悪そうなルキさんに声を掛ける。


「ルキさん、大丈夫ですか?降りられます?」
「…うん…」
「肩貸しますから」
「…や、大丈夫」


先に降りて、フラフラなルキさんの手助けをしながらタクシーから降ろした。
身長差もあって、肩貸すのが難しかったけど。

過ぎ去るタクシーを横目で見ながら、やんわり断るルキさんの背中を擦る。

ルキさんはタクシーに乗る前に渡したミネラルウォーターを一口飲んだ。


ルキさんが告げたマンションは、高層マンション。
外から見ても、エントランスが半端なく綺麗。


すげー。
こんな所に住んでんだ。


「ルキさん、部屋まで送りますよ。何号室ですか?」
「…あー…、いい。大丈夫。ありがと」


幾分か顔色がマシになったルキさんが顔を上げる。

まだ時間は0時を回る前だったけど、仕事もあるし早めにお開きにして。
俺としては、少しでもルキさんの部屋にお邪魔して飲み直したりしたかった所なんだけどな。


そんな雰囲気じゃ無い気がする。


「御免な、俺から誘ったのに先に潰れちゃって。今タクシー呼ぶから、」
「や、でもルキさん心配だし、部屋まで送りますよ」


携帯を取り出すルキさんにそう言うと、少し困った表情をしながら俺から視線を逸らす。


「…んー…此処、俺の家だけじゃねーから、簡単に人上げらんねーんだわ。御免」
「…誰かと一緒に住んでるんですか」
「まぁね」
「…彼女さん?」
「うーん、大事な人」
「……」


だから御免ね、今日はありがとって言うルキさんの声がもう聞こえない。

やっぱ、一応、この人の事をそう言う目で見てたからショックと言うか。


時間も時間だからかもしんねーけど、内緒にされてる感がどうしても拭え無い。
そんなに大事にしてる恋人いるんですか、ルキさん。


そんなやり取りをしてると、車が一台、マンション前に停まる。
車が来たからルキさんを歩道側に引き寄せたけど、ルキさんがその車を見て表情が変わる。


つられて、その車の方を見ると後部座席から誰か降りて来た。


その人物は、俺らの業界では知らない人は居ないと思う。
でも、俺は会うの初めて。


思いもよらない人物に俺が固まってると、さっきまで青白い顔してたルキさんが嬉しそうな顔をして肩を抱く俺の手から離れた。


「京さん、お帰りなさい」
「…お前何しとん、こんな所で」


車が走り去って、ルキさんが歩いてこっち来た『京さん』と言った人物に駆け寄る。

歌声とは違う、若干その人の高い声が耳に届いた。

ルキさんを一瞥して俺の方に視線を向ける。

眉を寄せて不振そうな目で見られた。
一気に緊張が走る。


その瞬間、ルキさんは『しまった』って表情をした。
彼に見えない位置で。


それが自分の中で確信は無いけど、嫌な予感が浮上する。


「誰」
「前に話してた、俺の後輩で虎って言います。今日一緒に飲みに行ってて」
「ふーん…」
「……」


ルキさんと同じぐらいの背丈で、上から下まで視線だけで眺められた。

俺からしたら先輩だし、初対面だし、威圧感と言うか。

オーラが凄い。

ルキさんも先輩だけど、軽々しく喋れる雰囲気じゃ無い気がした。


ってか、さっきからルキさんの言葉に違和感半端無い。


『お帰りなさい』?

『前に話してた』?


ルキさんがDIR EN GREYが好きで、そのヴォーカルをリスペクトしてんのは噂になる程で。
それ以上の事が、目の前に起きてる気がする。


「…おい」
「え、」
「お前、挨拶」
「……、すみません、挨拶が遅れました。アリス九號.のバンドのギター、虎って言います。ルキさんとは仲良くさせ、」


いつも先輩にする様に腰を曲げて挨拶をすると、言い終わる前にその先輩はエントランスに向かって歩いて行った。


悔しい。


バンドマンとして。


…ルキさんを好きな、男として。


お前になんか、興味無い。
そう言われてる様で。


「京さん…!御免、虎。あっちに行ったら大通りに出てタクシー拾えるから。あと、悪いんだけどこの事…」
「…大丈夫ですよ、誰にも言いませんから」
「ホント御免ね。また飲みに行こう。誘うから」
「はい、今日は有難う御座居ました。おやすみなさい」
「ありがと。おやすみ」


俺がそう言うとルキさんは安堵したような表情を見せて。
先輩の背中を追い掛けてエントランスへと消えて行った。


ルキさんが恋人の存在をなかなか明かさない理由。
2人のやり取り。

まさかあれで、一緒のマンションに住んでるだけ、なんて事は無いだろ。


どんな鈍い奴でも気付く。
好きな人の表情なら、特に。


一緒の部屋に住んでる相手が、あの人って事か。


知りたかったルキさんのプライベート。
知りたくなかった事実。


でも一つ。

男だからとか、そんなの関係無いって事だけはわかった。

好きな男の恋人が、男だったんだから。

俺にも可能性はあるって事だろ。

女だったら、まだ諦め切れたかもしんねーけど。


手の届かない位置にいる先輩だからだとか。
そんなの関係無い。


ルキさんとその人が消えて行った、高層マンションを見上げる。


諦め無い、そう心に決めて。




20120125



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