俺の場所/京流
デカい規模のツアーファイナルも終わって、次もあるけど一応は一区切りついた。
反省会は次の日するとして、スタッフやメンバー、後輩達と一緒に打ち上げして。
二次会、三次会と連れ回されて帰宅したのは4時ぐらいだった。
寧ろまだ飲みに行く奴らいたけど、さすがに断って帰って来た。
自宅はもう真っ暗で。
京さんの靴を揃えて端に寄せて、自分のも隣に置く。
あー…今すぐ寝たいけど、宴会場独特の色んな匂いが混じった移り香が不愉快で。
シャワーだけ浴びて寝よう。
明日は遅くから仕事でよかった。
リビングの方に入ると、室内はまだ暖かくて。
京さんがさっきまで起きてたのかなって思いながら、さっさと浴室に行って。
湯槽には入らず手早くシャワーで自分の身体を洗い流す。
打ち上げとか、ライブ後だからテンション上がってて楽しいけど、さすがに疲れた。
ドライヤーで髪を乾かさずに適当にタオルドライして。
京さんが寝てるであろう寝室のドアを開ける。
いつもの癖で、俺のスペースを開けて寝てる京さん。
こっちに背中を向けてるから顔は見えねーけど。
エアコンも加湿器も稼働してる部屋で、デカいベッドで京さんの隣に身体を滑り込ませる。
シーツ冷たい。
から、京さんの方に擦り寄って、背中から腕を回して抱き付く。
あーもう。
京さんの匂い。
大好き。
疲れた身体と脳に、京さんの体温と匂いが染み渡っていく感じ。
最高。
「……暑苦しい、邪魔」
「…ッ、」
寝てると思ってた京さんの声が聞こえて来て、一瞬ビビる。
いやだってね、くっつくのとか起きてるとやりにくいじゃん。
寝てるからこそ出来るっつーか。
邪魔って言われたけど、せっかくなんで振り払われるまでは離しません。
「起きてたんですか」
「…さっき寝ついたトコやったのに起きてもたわ」
「じゃー寝て下さい」
「離し」
「やです」
「嫌って」
京さんのうなじに顔を埋めて擦り寄ると、京さんから溜め息。
「京さん」
「なん」
「今日ライブ来てくれて有難う御座居ます」
「…行ってへんし」
「関係者受け付けの京さんの名前、ライン引かれてましたけど」
「偽物ちゃうー」
「京さんの名前語れる奴なんていないですよ。…ライブどうでした?」
「るきが別人やった」
「格好良かったですか?」
「…ふん」
「ちょ、鼻で笑わないで下さいよ」
何度も何度も誘って来れる時は来てくれんじゃんね、京さん。
良いも悪いも、何も言ってくんねーけど。
時々来てくれるだけでも嬉しい。
「打ち上げも参加してくれたらいいのに」
「無理」
即答な京さんに笑って。
愛しくて調子に乗って、京さんのうなじに吸い付いたら。
舌打ちをした京さんが、前に回した手を解かれて寝返りを打つ。
暗闇の中、京さんと向かい合う形になった。
顔の方に手を伸ばして来たから、勝手にキスした事怒られんのかなって思ったら半乾きの髪を掴まれた。
「い…ッ」
「お前なぁ、時々思うんやから髪乾かして寝ぇや。冷たい」
「あー…どうせ濡らしてワックス付けるから、めんどくさくて」
「ベッド共有しとんやから、ちょっとは気ぃ使え」
「次から頑張ります」
「……」
京さんは俺の髪から手を離して、また寝返りを打って俺に背を向けた。
から、また背中にくっつく。
だって俺、今日超頑張ったんですよ。
いい仕事して、家では京さんに癒されて。
幸せな気分に浸らせて下さい。
何千といるファンと、ただ1人の京さん。
どっちも違う意味で大切だし。
やっぱ俺も生半可に音楽やってねーから、京さんに観てもらえんの嬉しいし。
後で関係者リスト見た時のテンション半端ねーもん。
京さんもライブあるし、また仕事調節して観に行こう。
俺の日常に欠かせない人。
帰る場所はこの人の隣。
終
20120117
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