七草粥/京流
朝起きて隣見たら一緒に寝とった奴はもうおらんかった。
携帯の時間を見ると、僕が起きる予定の10分前。
携帯を手に持ったまま起き上がって伸びをして、頭を掻きながらベッドから降りる。
寒いんが嫌やって、いつも暖房つけて寝てもうとるけど、るきが買って来た加湿器と空気清浄機が一緒んなっとるヤツのおかげで、まぁ加湿されとるけど。
ちょっと喉がおかしい気がする。
暖房よりヒーターとか買うべきか。
少し咳払いをして、自分の喉の違和感に眉を潜める。
リハもあるし、気ぃ付けとかなアカンな。
寝室を出て、トイレと洗面所へ向かうと、キッチンの方から何か物音が聞こえて来た。
えぇ匂いがして来るし、あーるきが朝飯作っとんやなーって思う。
洗面所の鏡に写る自分の顔。
髪の毛めっちゃ寝癖ついとるし、ついでに濡らして乾かしてワックスを付ける。
短いとこういう時楽やんな。
また伸ばそうかどうか迷うけど。
欠伸を噛み殺しながら、リビングのドアを開けると空調が調節された部屋は暖かい。
「京さんおはようございます。もうすぐ起こそうかと思ってたんで、ちょうどよかったです」
「んー」
「朝ご飯もうすぐ出来ますよ」
「うん。珈琲ちょうだい」
「あ、はーい」
るきがサイフォンで作っとった珈琲を僕のマグに淹れて、テーブルに座った僕の前に置いた。
それに口を付けながら、携帯をイジってメールチェック。
めんどいからまた後で返そ。
「京さん、危ないですからちょっと手退けて下さい」
「…は?なに…」
「朝ご飯ですよー」
「……」
鍋敷き?か何かをテーブルの上に置いたるきが、ちょっと大きめの鍋を両手に抱えて持って来た。
ちょっと中身覗くと、何これ、お粥?
るきの方を見ると、お椀やらグラスやらを手に取って忙しなく動いとった。
まぁ、朝やから軽いモンでもえぇけど…粥とか見たん久々な気ぃする。
しかも2人やろ、量多くないかコレ。
「今日の朝は七草粥にしてみました」
「七草粥?」
「何か、春の七草を入れたお粥を1月7日の朝に食べると無病息災になるらしいですよ」
「ふーん…草なん?入っとん」
「いや、まぁ…草と言うか、俺もよくわかんなかったんでスーパーに売ってる七草粥セット買っただけなんすけどね」
「ようわからんのかい」
「まぁまぁ、いいですから。京さん食べて下さい。声ちょっと変ですよライブあるんですから風邪引かないで下さいね」
「うわ、るきに変とか言われた」
「どう言う意味ですかそれ」
るきが鍋から皿にお玉で粥をよそう。
その皿を受け取りながら、るきに言われる程やから、やっぱ喉変なんやな。
うがいもしとるしマスクもしとるけど、やっぱ寒いし風邪予防は難しいか。
市販の薬効いたらえぇねんけど。
「いただきます」
「…いただきます」
スプーンで粥を掬って食べると、温かい優しい味が喉を通る。
…珈琲と合わへんな。
「美味しいですか?一応味気ないかなーって思って中華味にしてみたんすけど…」
「別に、普通」
そう言いながら、次々に冷ましながら粥を口に運ぶと。
るきが目を細めて笑って食べ始めた。
七草粥で無病息災、な。
そんな迷信が実際起こったら苦労せんわ。
るきってどっからかそんな情報仕入れてやってみるとか。
いつもの事やけど、どんだけミーハーなん。
イベント事好きなんは、もう十分わかったわ。
「京さんもっと食べて下さい。七草粥食べたら病気にならないらしいんで、風邪も吹っ飛びますよ」
「ちょ、入れ過ぎやお前!」
「だってこれ全部食べなきゃ勿体無い」
「作りすぎやろ」
「…ご飯が思いの外、膨張したんで」
「考えて作れ」
皿ん中の粥を食べ終わったら、るきがお玉でまた粥を入れて来やがった。
おま、2人て事を考えろ。
胃に優しい食べ物でも、そんなよう食えんわ。
「後で薬も飲んで下さいね、出しておきますから」
「……」
…粥食ったら無病息災ちゃうんかい。
なんて、お前は現実的なんか迷信的なんか、どっちや。
それがいつものるきやけど。
終
20120107
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