焦がれる、/敏心



海外でデイオフの時、色々観光行ったり買い物行ったり。
海外の食べ物色々食べたりしとったけど、ライブもあるし疲れてバスで読書でもしようかなって思ってバスに帰る。

したら、いつもの如く外出するんが嫌いなウチのヴォーカルは他のメンバーがおらん時に定位置になりつつある備え付けのソファの所で胡座かいてパソコン見ながら電話しよった。


僕がバスん中に入ったら京君はチラッと僕の方に視線を向けてまた電話をし始めた。


「ほなもう切るで」

「知ーらーん。そんなんいつ見えるかようわからんし。1人で見とき」

「はいはい。…え?そらそうやけど…うん、わかったわかった。好きにしー」

「ん。ほなな」


京君のあしらう声を聞く限り、まぁルキ君なんやろな。

別に電話しとってもえぇのに。

邪魔してしもたか。


口では嫌そうなニュアンスで応えながらも表情は柔らかい。

京君海外嫌いやし、ストレス発散にどっか行ったりせんとバスに籠りっきりやし。
あんまりご飯食べたりせんし昔程ピリピリしてへんけど、ルキ君と電話しよって楽しそうならよかった。


自分の寝るスペースに何冊か置いとるからそこから読みかけの本を取る。


「京君、コーヒー飲む?」
「うん」
「ほな淹れるわ」
「どうも」


携帯を切った京君はまたパソコンに向かう。


そんな京君と少し距離を置いたスペースに本を置いて、簡易キッチンに立つ。
京君と自分の分のドリップコーヒーを淹れてマグカップを2つ持つ。


「京君て砂糖とかいるん?」
「いらん」
「…何や、ブラックで飲めるんや。意外やな」
「どう言う意味やねん、心夜」


京君の分のマグを差し出して小さく笑うと、京君はソレを受け取りながら笑った。

穏やかに。

それを見て、自分も目を細めて笑みを返す。


見とったノーパソを閉じて、自分の横に置くと京君はコーヒーを飲み始めた。


少し離れた所に座って、コーヒーを飲みながら本を開く。


「…心夜、これ薄いんやけど」
「そう?僕こんくらいがちょうどえぇ」
「………」
「…ルキ君おらんで残念やな」
「──…別に」
「そう?ルキ君元気なん?」
「元気過ぎるわアイツ。今日も日本で双子座流星群が流れるだの何だのギャーギャーと」
「ルキ君そんなん好きなん?」
「好きやで。アホみたいに」
「ふーん、珍しいな、」


京君がここまでルキ君の事を話するん。

まぁ普段から僕がそんなに聞く訳では無いんやけど。


京君の話を聞く為に、開いた本を閉じる。
コーヒーを一口飲んだ時、出入り口が開く音がした。


「しーんや。スタッフが車借りたらしいよ。みんな観光行くらしいけど行かねぇ?」
「………」
「敏弥、……、うん、ほな行くわ」
「早くねー」
「京君は、」
「行かん。無理。行く訳ない」
「…そう」


敏弥の明るい声が車内に響いたと同時に、京君の表情が一瞬で強張る。


さっきルキ君の事を喋っとった京君の声色とは全く違う、冷めた声。

無意識なんか知らん、京君は自分の左手に付けたブレスレットを右手で撫でた。


ほな行って来るなって京君に言うて、自分のスペースに本を置いてバスを出てった。


出入り口の前で待っとった敏弥の姿に驚く。


「京君と何話してたの?」
「…別に、世間話」
「ホントに?」
「うん」
「まぁいいけどね」


口元だけに笑みを浮かべて、目は笑っとらん状態。


京君も敏弥も、別れたんは何年も前やのに。
未だにお互い、解決してへん。


仕事以外は喋る事がない。


どれだけ京君はトラウマになっとんやろ。
お互いどんだけ意識しとんねん。


敏弥の3歩後ろを歩く。
見える敏弥の背中。


一番近くにおって、一番遠い。

なかなか手に入らへん。


2人の過去を払拭させる術が、僕にはわからへんから。




20111214



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