皆既月食/京流



海外でのツアー中。

他のメンバーは観光が好きなんかデイオフん時は頻繁に出掛けとる。
よう日本語も通じひん知らん外国で出掛けられるわ。

まぁ皆がどっか行っとるから、バスん中は静かでえぇけど。


僕は絶対出掛けんのとか無理。


海外ツアー中は大半を過ごすアホみたいに広いバスん中。
一角にあるソファに胡座を掻いて、足の上にパソコンを置いて適当に操作して画面を見る。


日本に帰りたいわー。

この店とか新作出とるやん。
久々に見に行きたい。


そんな事を思いながら1人でパソコン画面を眺めとると、脇に置いた携帯が鳴る。

海外からでも通話出来るようには設定しとるし。
掛けて来るんは大概、あいつ。


ディスプレイで『るき』の文字を見て、通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。


「なん」
『あ、お疲れ様です。京さん今大丈夫ですか?』
「平気。何」
『いえ…今日こっちで皆既月食が観測出来るそうなんで、京さんの所はどうかな、と』
「…時差あるし知らんわ」
『ですよねー。今ベランダなんすけど、超寒いです』
「アホか。風邪引くで」
『防寒はしてますよー…あ!京さん京さん!月が欠けて来ました!』
「あそー」
『すげぇ綺麗に月見えますよ。11年振りらしいです、皆既月食がちゃんと見えるのって』
「ふーん。で?」
『え?』
「用事何なん」
『え、皆既月食を京さんと見たいなぁって思って電話しただけですよ?』
「…暇人め」
『あは。空は繋がってるんですよー。離れてますけど、見える空は同じじゃないですか』


風が吹いとんのか、時々ノイズが入りながらるきの低い声が少し笑ったんを感じた。

臭い台詞を吐くるきに呆れながら、見とったパソコンを操作する。


るきは電話口で、いちいち月がどのぐらい欠けただとか今日スタジオでこんな事しただとか。
いつもの様によう喋る。


日本におった時は、るきによく月やとか星やとかそんなん一緒に見せられた気がする。
今はその一緒に見たベランダで、るきは月を見上げとんやろなって容易に想像出来た。


バスん中、1人でする事もない僕は何だかんだるきの話に付き合って。
海外の飯が不味いって愚痴って。


るきが23時6分に完全に重なるって言うた時間まで、ついうっかり長電話。


『あー、すっげ、京さん!月、月が赤いですよ!』
「はいはい、よかったなー」
『もー京さんも一緒に見れたらこの感動を分かち合えんのに!』
「見たとしてもお前と分かち合う感情はありません」
『うわー…これ写真とか撮れねーかな。一眼レフとか買えばよかった』
「使いこなせれんやろお前に」
『でもマジこの赤い月凄いですよ!』


凄いだの何だの、歌詞書いとる癖にお前はもうちょっと語彙は無いんか。

貧相な言葉選びやな。


鼻で笑いながら、パソコン画面を眺める。


最近のネットは便利になっとるわ。
日本から遠く離れとっても、日本の景色が見えるんやから。


るきが一緒に見たかったって言うとった皆既月食を、ネット中継されとるパソコン画面から見つめた。

多分こっちの方が高画質で月のアップやからよう見えるわ。

確かに赤い。


るきみたくギャーギャーとテンション上げる程でも無いけど。


もうお前もパソコンから見ろ。
風邪引いても知らんで。
何時間ベランダにおるんや。


『ッあー…月が真上にあるから、観測すんの首痛ぇ』
「アホやな」
『次は何年後に皆既月食見えるかわかんないですけど、一緒に見えるといいですね』
「や、僕興味無いから」
『京さんも見たら絶対ハマりますって!』
「はいはい」


もう一緒に見とるけどな。

ネットから。


絶対そんな事、教えたらんけど。




20111212



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