100回も出来ませんでした/京流
寝る前のまったりした時間。
風呂も入ったけど、京さんが炬燵に入ってテレビ観てたから、俺も90度側の一辺に入って一緒にテレビを観る。
DVD観てたらしいんだけど、内容つまらなかったらしくて携帯イジってんだけど京さん。
俺は途中から観たから内容さっぱりわかんねーし。
観てないなら寝よーよ、京さん。
この人気分屋だし、人に言われたら行動に移さねー事あるんだよなー。
テーブルに肘付いて、京さんをじっと見つめる。
風呂上がりで暑かったのかTシャツ姿の京さん。
そりゃ空調も加湿もバッチリだし炬燵に入ってるから暖かいだろうけど、風邪引きますよー。
でも袖から見える刺青だらけの腕とか、筋肉付いてて格好良いから超好き。
れいたも筋肉ありまくってるけど、京さんの方が断然格好良いよな。
俺も筋肉欲しいなー。
全くねーんだけど。
京さんの腕をじっと見て、何となく自分の二の腕を触る。
京さんみたく力コブ出来ねぇ…。
これじゃメンバーと腕相撲しても負ける訳だよなー。
散々自分の二の腕を触ってから顔を上げると、いつの間にか俺の方を見てた京さんと視線が合った。
「……何しとん」
「や、京さんみたく筋肉ねーなーって…」
「そらそうやろ。お前筋トレとかせぇへんやん」
「マイク持つ筋力はあります」
「持たれへんかったら論外やな」
「あー…だからメンバーに腕相撲負けるんすよね、俺」
「なん、負けたん」
「だってれいたとか戒とか筋肉半端ないんですよ!」
「は、かっこわる」
「…じゃ、京さんの方はどうなんですか」
「そもそも僕んトコそんなアホっぽい事せんしな」
「え、意外と盛り上がりますよ?」
「…るきはアホやしな」
「何ですかもうー」
京さんが呆れた顔をして、わざとらしく溜め息を吐いて視線を逸らした。
まぁウチのバンドは昔から馬鹿な事でも真剣にやってるからね。
「じゃ、京さん俺とやりましょうよ、腕相撲!」
「…お前バンド内で一番弱いんやろ」
「まぁ、」
「僕に勝てると思っとん?」
「頑張ります」
「……。えぇけど、何賭ける?」
「え?」
「何賭けて勝負する?」
「えぇえぇー…」
俺京さんに勝てる自信がこれっぽっちもねーんだけど!
賭け事すんの!?
京さんめちゃくちゃ楽しそうに笑ってますけど。
「決めへんのやったら、負けた方が勝った方の言う事聞くんな」
「え、じゃぁ俺勝ちたいんですけど」
「頑張れー。手加減せぇへんから」
「して下さい。お願いします」
「はは。絶対嫌」
だって京さんが俺の言う事聞いてくれるとか、超貴重じゃん。
一生無いかもじゃん。
うわー勝ちてぇ。
炬燵を挟んで向かい合って、身体を乗り出して真ん中で手を組む。
もうその時点で京さんの力コブ見えて俺のと全く違うんですけど、腕の太さとか。
至近距離でじっと見つめ合って。
京さんの掛け声で、勝負が始まった。
「お前ホンマ弱いな」
「……」
「秒殺ってどう言う事」
「…京さんが強すぎなんです」
「ちょっとは鍛えたら」
「あー…マジ痛ぇ。京さん今度れいたとどっちが強いかやってみて下さいよ」
京さん握力も強い。
速攻負けたんだけど。
腕めちゃくちゃ痛ぇ。
右手を振りながら、京さんを見ると速攻で勝負決まったのをつまらなさそうにしながら煙草を咥えた。
反射的にライターを掴んで、その煙草に火を点ける。
「嫌やしめんどい。さて、るきちゃんに何言う事聞かそうかなー」
「…いつもと変わらない気がするんですけど」
「それもそうやな」
「はぁ…」
ちょっと溜め息。
勝てる気はしなかったけど、負けた方が勝った方の言う事聞くなら勝ちたかった。
勝って俺の言う事を聞く京さんを見たかった。
マジ鍛えようかな。
「じゃ、お前今から腕立て300」
「えっ」
「言う事聞くんやろ?鍛えられて一石二鳥やん」
「…もうちょっと色気のある事だと思ってたんで」
「糞ガキ。500に増やすで」
「絶対無理です。多分100回も出来ません」
「…貧弱過ぎる…何なんお前…逆に凄いわ」
「京さんが鍛え過ぎなんです」
「もうえぇから。数えたるからほら、やれ」
「えぇえぇ、今から!?マジっすか!」
「はーよーぉ」
何で夜中なのに京さんこんなテンション上がってんの。
立ち上がった京さんに腕を引かれて、無理矢理炬燵から引っ張り出された。
京さんの筋肉すげー格好良いとか思ってたけど。
この時ばかりは恨みます。
…格好良いけど!!
終
20111205
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