優しい指先/敏京




「敏弥、何しとん」
「んー?もう冬で乾燥してるから保湿クリーム塗ってんの。スタッフの人がいいのあるよーって言ってて。貰っちゃった」
「はぁ?女か」
「まぁ女の子がするイメージだよねぇ」
「そんなん男やらへんやろ」
「俺女形だし?処理とかあるし、やってて肌綺麗になるならいーじゃん」
「ふーん」


撮影たから、化粧とヘアセットがバッチリやって。
終わってからシャワーも浴びてスッキリして私服に着替えてもう各々帰ってえぇってなった時。

部屋の隅っこで敏弥は半裸状態で何か足とか腕にクリーム?塗っとった。

部屋は空調効いとるから寒くは無いけど、早よ下穿けやお前。


他にメンバーおるけど、まぁ男同士やし何の違和感も無く素足晒して。
テーブルの上に上げられた片足は、コイツ足出す衣装着るしいつも綺麗に処理されとる。


女みたい、と言うよりかは、そこら辺の女より綺麗。
つーのは、恋人の欲目なんやろか。


無駄に長い足しやがって。
腹立つわー。


もう僕は帰り支度も出来とるし、敏弥が座っとる横に椅子引っ張って来て座る。
女々しい事しとる敏弥をじっと見つめる。


このクリームの匂いなんか、何か甘い匂いがする。


「京君も俺の肌がザラザラだったら嫌だろ」
「気にした事無いし」
「もーいつも触ってる癖に」
「いつもちゃう」
「いつもじゃん。昨日の夜だって眠いとか言ってた癖にノリノリで俺の上に乗、」
「あぁあぁー煩いなお前!早よ着替えろや!放って帰んで!」
「やーだー。ちょっと待って」


アホな事言うとる敏弥の言葉を遮って立ち上がろうとすると、敏弥の手が僕の手首を取ってまた椅子に座らされた。

ムッとしてテーブルに肘付いて敏弥から顔を逸らす。
小さく笑った敏弥は、塗り終えたのか私服を着始めた。


「京君、今日ご飯どっかで食べる?」
「肉」
「はは。焼き肉行く?」
「うん」


敏弥は掌にクリームを出して、自分の掌に塗り込んで行く。

何となく、その様子をじっと見つめる。
敏弥は背丈もあるんか知らんけど、どこもかしかも長い。

足も、腕も、指も。

敏弥の指は細くて長くて綺麗。

あったかいし。


そんな事を思いながらボーッと見とったから、いきなり敏弥に手を掴まれてちょっとビックリした。


「は?何、」
「クリーム出し過ぎちゃったから。京君にもお裾分けー」
「いらんし」
「まぁまぁ」


敏弥の両手が僕の片手を包んで、クリームを塗り込む様に滑らせる。

僕は女形でも無いし、敏弥みたいに気にせぇへんからいらんのやけど。


「京君の手ってか指って綺麗だよね」
「ほーか?」
「うん、超綺麗。俺、京君の手すげー好き」
「…ふーん」


敏弥が目を細めて優しく僕の手を撫でながらそんな事言うから。
引っ込めようとした手を止めて、あまつさえもう片手も手を取られて差し出す始末。


おいコラ出し過ぎたからとか言うて僕の手になすり付けとった癖に、また新しく出して僕の手に付けるってどう言う事や。


「これいい匂いだろ」
「…甘い」
「バニラだって」
「甘い」
「京君甘いの好きじゃん」
「食うんは好き」
「甘いからってクリーム舐めんなよ」
「何処のアホやねん、それ」
「あはは」


丁寧に僕の手にクリームを塗り込んだ敏弥。

僕の手まで何や女々しく甘い匂いが漂って来るようになってもた。

最悪や。


「うん、京君の手も綺麗になりますよーに」
「ちょ、」


そう言うた敏弥は、僕の手を引き寄せてクリーム塗ったばっかの指に唇を寄せた。


で、ちょっと舐めやがった。


反射的に敏弥から手を振り払う。


「何すんねんこのアホ!」
「うん、甘そうな匂いするけど、やっぱクリームだから不味いねー」
「…此処にアホがおったわ…自分が言うた癖に」
「だって京君の指が美味しそうだったんだもーん」
「もん、とかキモい。最悪やもう」


ここ楽屋でまだメンバー残っとるヤツおるんやけど。

僕らが付き合っとんはとっくに知っとるけど、あからさまな事するんは僕は好きちゃうって、何回言わすん。


「怒らないでよー」
「知らん」
「京君が美味しそうなのが悪いんじゃん」
「どんな逆ギレやそれ」
「あは。でもお揃いの匂いだね」
「うわ、手ぇ洗って来よ」
「ダメダメ!ほら、ご飯食べに行くよー」
「ちょ、手ぇ離せや」
「やでーす。じゃ、皆お疲れー」


荷物を持った敏弥に手を引かれて、楽屋を出てった。
他のメンバーは手を軽く上げて挨拶して来て。


誰かコイツを止めろ。


僕を我儘って言うけど、絶対コイツのが我儘やから。
好き勝手しとるから。


そんでそれを許しとる僕は、やっぱコイツの事が好きなんやろなぁ。




20111124



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