解禁日と流星群/京流




仕事から帰って、広い風呂で時間かけて半身浴して。
もう結構な時間やし、筋トレして寝よかって思ってラグの上で筋トレ中。


玄関の方で鍵が開く音が聞こえて来たから、るきが帰って来たんやなってボンヤリ思う。


黙々と自分で決めた筋トレメニューをこなしとると、リビングのドアが開いた。


「あ、京さん居た。よかったー」
「…何やねん、お前」


寒い外気をまとったるきが部屋ん中に入って来て、それと同時に気の抜けた声。
コイツの声は何や力抜ける。


「やーもう朝方来るんで京さん寝てるかなって思ったんですけど。今日獅子座流星群観察出来るらしいですよー。一緒に見ましょうよ」
「はぁ?また訳わからん情報仕入れて来やがって」
「ボジョレーヌーボーも今日、つっても昨日の日付けですけど、解禁されたんで買って来ました。飲みながら流星見るとかよくないですか?」
「…いや、外寒いし」
「京さん筋肉あるから大丈夫」
「どう言う意味やねん」


僕が腹筋しとる横で、サングラスを外したるきが座ってテンション高く話し掛けて来る。

買って来たってワインを見せながら。

あんま飲まん癖に、メディアに踊らされやがって毎年毎年そんなモン買って来て。


頭ん中で数を数えながらるきの方をチラッと見て、また正面に視線を戻す。


「じゃ、京さん観察するまでには終わらせて下さいね!」
「……」


るきも僕が筋トレするんには慣れとるから、無言で延々と腹筋する僕を残して。
立ち上がってキッチンの方へと向かった。












「あ、京さん終わりました?」
「…お前もボーッと見とらんと筋トレぐらいやったら?体重の変動激しいんやから」
「俺筋肉無いからそれは諦めました」
「もやしみたいな体型やもんな」
「ライブ乗り切る体力があればいいんです!」
「将来メタボやな」


筋トレ終わって、タオルで汗を拭く。

るきは僕の横に座ってその様子を見とって。
やりにくい、と言うか気持ち悪い。


「じゃ、京さんこれ着て下さい」
「は?」
「外寒いんで」
「いやいや、えぇから。ちょ、着せんな」
「ボジョレーヌーボー美味しいですかねー」
「人の話聞けアホ」


何かるきに僕のブルゾンを着せて来て。
るきもガッツリ着込んだまま新しく買ったらしいワインの封を切った。

もう何なんコイツ。
普段僕の言う事聞いとんのに、たまに手に終えん時があると言うか。

流されやすいんか僕。

ちょっとヘコむわ。


ワイングラスに注がれたワインを手渡されてグラスを持たされる。


「京さん、ベランダ行きましょう」
「寒い」
「ワイン飲むと温まりますよ」
「お前…たまにムカつくよな」
「あはは。京さんと一緒に流星群観察したいんですって。俺がそう言うの好きなのいい加減知ってますよね」
「知っとるけど…、…うわ、寒ッ!」
「あー…マジ寒ィ…星見えますかねー?夜明け前が見やすいらしいんですが」


るきと一緒に出たバルコニーは、めっちゃ寒い。
無言で部屋に入ろうとしたら、るきにガシッと腕を掴まれて阻止された。


「あー…曇ってる…今日は見えないんですかね」
「ならもう部屋入ってえぇやん」
「…はい、京さんカンパーイ」
「………」


上を見上げるるきは目を細めて残念そうに呟いた。
お互い持ってたグラスを合わせられて、取り敢えず一口飲む。

今年は何や酸味が強い感じなんやな。

意外と美味い。


「はー…残念。流星群見たかったなー…」
「えぇやろそんなん見んでも」
「願い事とかしたいじゃないですか」
「ガキみたいな事言うなや」


るきはチビチビ飲みながら、僕の方にぴったり寄り添って来た。

空は確かに曇っとって、星が見えんのはいつもの事なんやけど月も見えてへん。


普段は全く見ぃへん癖にな。


「京さんとずっと一緒にいれますようにーってお願いするんです」
「ほなるきの願いが叶いませんようにって言うとくわ、僕」
「ちょ、何でですか酷い!」
「星に自分の生活どうこうされたない。今の現実が大事やろ」
「…京さんたまには夢見ましょうよ」
「2人も夢見た発言しとったらアホ極まり無いやんか」
「あ、確かに」


すぐに納得するるきに、思わず吹き出す。

アホや、ホンマに。


「さー寒いから早よ入ろ」
「えー京さんもうちょっと」
「もう無理。寒い。1人でおりや閉め出したるわ」
「それは嫌です!」


言うと慌てて後を付いて来たるき。
夜風にグラスが冷えて、気持ち良かった。


見えへんでもいいわ。
アホな願い事されんで済むしな。

星に頼らんと自分の力で掴みや。

今までそうして来たように。




20111118



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