ハロウィン前日/京流
もう深夜になるような時間。
ライブの為に前日に大阪入りして。
連れて行かれた所でスタやメンバーと飯食って、1人先にホテル帰って簡素な部屋のベッドに寝転がる。
明日もリハあるし、早めに寝とこうかなって思うけど。
前日のライブと移動で疲れた身体は一度ベッドに身体を預けると動くん怠い。
ちょっと寝返りを打つと、ホテル入りした時にスタに設置された加湿器が稼働しとんが目に入った。
こんなんしとっても、連日酷使した喉がなかなか回復する事はないけど。
溜め息を吐いて風呂でも溜めようかと思って身体を起こす。
こう言うんて遠征し慣れとるから自分でするんも平気やけど、家におるんとるきがやるから1人で何やっとんやろって思ってまう時がある。
そんな風に思う程、あいつが僕の生活に侵食して来とんかと思うと複雑と言えば複雑や。
風呂場に行こうとした時サイドテーブルに置いた携帯が鳴る。
ディスプレイを見たら『るき』の名前。
「…なん」
『京さんお疲れ様です。今電話大丈夫ですか?』
「平気ー」
『今大阪?』
「…そうやけど。何で知っとん」
『そりゃ、京さんのスケジュールは把握してますよ』
「…気持ち悪」
『いやいやいや、いつもの事じゃないですか。京さんツアースケジュールくれるし』
「開き直んな」
電話口から聞こえる、るきの声は若干掠れて低い。
それでも声色で機嫌がえぇって言うんはわかる。
こいつもツアー中やったよな、確か。
るきの言葉に適当に相槌を受けながら風呂場に行って、蛇口を捻ってバスタブに湯を溜める。
めっちゃ狭いし。
自分ちの風呂がえぇわ。
アホ程広いし寛げる。
『京さん大阪2日間ですもんね。俺もライブなんすけど、無かったら行きたかったです』
「わざわざ関西まで来んでえぇやろ」
『や、でも明日はハロウィンですよ。去年もちゃんと過ごして無かったし、今年も会えねーし』
「……はぁ」
そう言えばそんなイベント事あったなぁ…。
るきがイベント事好きなんは嫌って言う程わかっとるけど、電話してまで言う事かこのアホは。
つーか明日ハロウィンなんか。
やから、やたらとプレボに菓子が多かったんやな最近。
そんな事を考えながらまたベッドに乗り上げて座り、壁に背中を預ける。
『…あ、今、日にち変わりましたよ。31日ですよー』
「ふーん」
『京さん京さん。トリックオアトリート』
「……」
『お菓子くれなければ悪戯します』
「るきが?やれるんやったらやってみぃや」
『ッちょ、それ飛行機か新幹線が動いてる時に言って下さいよ!』
「…来る気か。ライブあるのにアホな事言うな」
『朝イチで戻れば間に合いますから大丈夫です!』
「アーホーか。このパブロフの犬が」
『あはは』
るきの笑い声が耳に届く。
来たとしても、るきが僕に悪戯するやありえへん事やん。
逆は喜びそうやから嫌やな。
『今年も京さんにキスマーク付けたかったなー』
「…そうやお前去年そんなナメた真似したな、確か。そうやそうや思い出した」
『あは。今回付けたらライブまでに絶対消えないんで見せびらかせるかな、と』
「…酷い虫刺されやな。虫は駆除するわ」
『嫌です』
「嫌って。僕のが嫌や」
るきが言うと、ホンマに全部しそうな所が。
呼び出したら来る所も、僕の事に関しては後先見えへん盲目な所も。
昔は全部、僕好み。
今は少しだけ、こいつの事情も汲み取る関係になったから。
鬱陶しい事、たまに言う奴やけどな。
それがるきやから、しゃーない。
そう思える関係。
『じゃ、京さんにはお菓子あげないんで思う存分悪戯して下さいね、俺に』
「………風呂溜まったし入るわ」
『ちょっ、スルーしないで下さい結構恥ずかしいんですけど!』
「はいるきおやすみー」
『え、京さ、』
まだ何か言いたげなるきの声を無視して、携帯の電源ボタンを押す。
通話終了。
溜まったであろう風呂の湯を止める為に、ベッドから降りた。
悪戯、なぁ。
別にイベント時にせんでも。
僕が好きな時にしたるわ。
一緒におるんやから。
終
20111030
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