本来の居場所/京流



京都でライブが終わって、メンバー皆がホテルに泊まる中。
実家に身を寄せる。

あー…もう東京暮らしにも慣れたけど、やっぱ実家は楽な気ぃする。

空気も落ち着いとるし、もう京都の方に住みたいわー…東京ゴミゴミしとって鬱陶しいし。


実家の自分の部屋で、窓を全開にしてして夜空を見上げながらそんな事を考える。

ツアーで酷使した喉はガラガラでちゃんと声出ぇへんし。
一週間ぐらい中日があるとは言え、もう明日には東京に帰ってリハやら何やらが待っとると思うとかなり憂鬱になる。


東京程、喧騒の無い中。
静かに目を閉じても自分の呼吸音しか聞こえへん感じが落ち着く。

と、同時に自分が独りになった感覚。


目を開けて、乾いた溜め息を漏らして、床に敷かれた布団の上に寝転がった体勢で、自分の携帯をイジる。
メールが数件、るきから。

ライブやら移動やらで、返信してへんかったけど自分もツアー始まった癖に暇人かお前って言うぐらいメールが入って来とった。

時々電話も。

タイミング悪く出てへんけど。


現状報告しとんか、ライブ前の化粧も髪型もキメたるきの写メを見て。
登録されとるるきの番号を呼び出した。


耳に電話を当てると、嫌と言う程聞き慣れた自分の声が鼓膜を刺激して眉を寄せる。


『もしもし、』
「何やのお前、もう声枯れとんか」
『…京さんだって、声掠れてますよ。お疲れ様です。大丈夫ですか?』
「お前に心配される程ヤワな声帯ちゃうわ」
『だったらよかったです。京さんいつ頃家に帰れます?』
「んー。明日の夜ちゃう。多分ソッチ着いたらすぐスタジオ入りすると思うわ」
『マジすか。俺もツアーあるし、入れ違いでなかなか会えないじゃないですか』
「知らんわそんなん」


久々に聞いた気がするるきの声。
いつも低音な声が、ライブで吠えた為に若干掠れとった。

僕と違ってボイトレ通ったりしとんのに、今から大丈夫なんそんなんで。


るきはツアー前、自分と僕のツアースケジュールをアホみたいに照らし合わせて見とったけど、あまりにも噛み合わんスケジュールで何やギャーギャー言うとった。
アホかと思うわ。

電話越しの、るきのマシンガントークに適当に相槌を打ちながら自分の指先を何となく見る。

るきにクリーム塗られてマッサージされとった指先は、そんな事一切せぇへん僕の手によってまたガサガサんなって来とった。


『そう言えば京さん、今日は実家にいるんですよね?』
「そー。やっぱ京都はえぇわ。もう京都に引っ越ししよかな」
『え!?じゃ、俺もついて行きます』
「ストーカーか。キショい」
『だって京さんが…!』
「だーまーれ。人の所為にすんなアホ。アホな発言すなアホ」
『…京さんアホアホ言い過ぎですよ』
「アホにアホ言うとんねん」
『ひでー。でも実家に引っ越しするなんて言われたら俺も押し掛けてご両親に挨拶させてもらって住み着きますからね』
「…うわー…」
『京さんの義母さんと良好な関係を築く様に頑張ります』
「…ホンマにやりそうで嫌やな、るきやと」
『そりゃぁもう』


京さんとの事、本気ですから。


なんて糞生意気な事を電話越しに言いやがった。

コイツは僕の何処がそんなにえぇんやって時々疑問に思うわ。


昔から頭のネジどっか飛んどんちゃうかって。


まぁでも僕の事に関して盲目なるきやなかったから、ここまで一緒に人生を共有する事も無かったやろし。
別にえぇけどって思う僕も、頭のネジ飛んどる気ぃする。


確かに実家におったら落ち着くし京都の雰囲気は好きやしえぇけど。

東京のマンションにおったらどっかの誰かさんがおる所為で、独りでおるって言う感覚にはなれへんな。


一人と独りはちゃうから。


『あー…でもこんな事言ってるとマジで会いたくなって来ますね』
「ほうか。なら切ろか。もう言わんように」
『えっ、もう少し。声聞きたいです』
「ふーん」


目を閉じて、るきの声に神経を集中させる。


落ち着くって言うんとは違うけど。
慣れたるきの声色は、僕がおるべき場所は此処やなくて喧騒が煩い東京の方やって言われとる気ぃする。

それ程、僕に侵食して来たるきの存在。


悪くは無い。
僕以上に、僕に侵されとるるきやから。




20111017


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