意識はこっち側/京流




夜風が涼しい中。
高層マンションの夜景を眺めて煙草を吹かしながら電話をする京さんの後ろ姿を眺める。

仕事の話なんだろうな。


部屋着に着替えた京さんの後ろ姿。

今その後ろ姿に抱き付いたら怒られるんだろうなーなんて思いながら。
自分の携帯からもメール受信を示す着うたが流れて、携帯を手に取って返信をする。


もう肌寒くなって来たから毛布とか出した方がいいかなーとか考えながら、京さんに頼まれたココアにゆっくりと口を付ける。

京さんの分はテーブルの上。

冷めちゃいますよー。


また来たメールの返信をしながら、京さんが帰って来るのを待つ。
だって一緒にいたいじゃん。


早く帰って来いーって念を込めて窓越しの京さんの後ろ姿を見てると、電話が終わったらしい京さんが携帯を閉じて咥え煙草のまま部屋の中に戻って来た。

そのまま、テーブルの上の灰皿に煙草を揉み消して俺が座ってる後ろのソファに腰を降ろす。
外に居たから、京さんが纏う外の空気を感じた。


「京さん、ココア」
「ん」


京さんの分のマグカップを差し出したら、京さんの墨まみれの指がソレを受け取った。


その時、俺の携帯からメールを告げる着うたが流れて。
その音に京さんが眉を寄せる。


京さんの声じゃん。
普段喋る声と違う歌声も、好き。

前に着うたが嫌なら京さん声吹き込んで下さいって言ったら舌打ちされて無視されたんだよな。
声ぐらいいいじゃんか。


メールを返信して、ちびちびとココアを飲む京さんの足元で、今日はこんな事があったとか1日の事を話する。
京さんは聞いてんのか聞いてないのか、適当に返事をしてた。


そしたらまた着信。


「るき煩い」
「すみません、マナーにしておきます」
「それはせんでえぇけど。仕事の電話とか気付かんと困るし」
「あー別にとりとめのないメールなんで」
「ふーん」
「最近連絡先交換した後輩なんすけど」
「へー、るきに後輩やおったん」
「そりゃいますよー。何回か会った事あるんすけど少し話した程度で。この前のイベントの打ち上げに交換して」
「あぁ、何か行っとったな」
「虎って言う奴なんですけど、結構メールしてて」
「とら?誰?」
「アリス九號.ってバンドのギターの奴です」
「ふーん、知らん」
「まぁ俺の事務所の後輩バンドです。何回か一緒にイベントライブしましたよ」
「あそー」


興味なさげな京さんは俺から視線を外してもう冷めて飲みやすくなったっぽいココアを煽る。

まぁ結構頻繁にメールはしてんなー。
お互い仕事の時以外は。

でももう京さんといるし、また返信は明日にしよ。
そう思って、すぐに返信を必要としない内容のメールに目を通して携帯を閉じる。


「…最近仲良くなったん?」
「あーそうですね。今までは顔見知り程度で」
「言うとらんよな」
「え?」
「僕との事」
「まさか。言いませんよ。京さんとの関係知ってるのはメンバーだけです」
「ふーん。ならえぇわ」
「京虜だって事は知れ渡ってるみたいですけど」
「…お前そんなんやからなぁ…」
「そんなんって、何なんですか」
「んー。何かポロッと言いそう」
「そんな京さんに迷惑かける事さませんよー」
「迷惑っつーか、あんま信用しとる人間以外に言いたないだけ。僕んトコの後輩やったらガラは知っとるしな」
「ガラさん、京さんと仲良いですもんね」
「ん」


まぁ男同士が同棲してるとか、別に悪い事してる訳じゃねーし堂々としててもいいと思ってっけど。
業界にいる訳だし気軽に人には言えねーよな。


ホントは虎に、彼女いるかって聞かれた時はスゲー言いたかったけど。
愛してる男がいるって。


京さんの膝に擦り寄って見上げる。
自分がこんな甘えた事するなんて、この人と出会うまでには無かった事。


「ま、俺メンバーにはかなり言ってますけどねー」
「うわぁ…お前嫌やわホンマ」
「京さんが格好良い事しか言ってないです!」
「気持ち悪」


嫌そうに歪められた顔で見下ろされて。
そんな京さんも好きですって言ったら足蹴にされた。


所詮Mですから。
ヘコたれませんよ、いつもの事だし。


京さんもいつもの事って思ってるかもしんねーけど。

京さん相手じゃなきゃ、こうはならなかったですって。

自分が変わるのが苦痛じゃねー程、愛してる相手って事で。




20110925



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