キャタピラー/京流



るきと部屋でDVD鑑賞。
最近出たヤツとかで、るきが他人から話聞いて借りて来たヤツやねんけど。

話単調やし、微妙やなぁ。

隣のるきを見たらるきもそんな感じやったらしく、眼鏡かけた呆けたツラでボケっと見とった。


るきが用意したつまみに手を伸ばして食べながらワイングラスに口をつける。
邦画観ながらワインて合わへんなぁ。


あ、終わったっぽい。
最初から最後まで何も展開ない話やったな。


溜め息を吐いて、ソファに凭れるとるきがリモコンを操作して画面をテレビに切り替えた。


「あー…何か、微妙な感じの話でしたね」
「せやなぁ、つまらんかったわ」
「話聞いた時は観てみようかなって思ったんすけどね」
「ま、人から聞くとえぇように聞こえるし」


るきが隣で伸びをして、自分の分の缶チューハイに手を伸ばして一口飲んだ。


「でも京さんどうします?あんな風に四肢無くなって耳も聞こえないし声も出なくなったら」
「んー…先天性やったら違和感無いんやろけど後天性やと嫌やなぁ。声出んかったら歌えんやん。したらもう意味無いかな。自力で生きる事が出来んし」
「あ、そこは俺が世話するんで全然大丈夫ですよ」
「お前も映画の女の様に仕返しに暴力奮って来そう」
「京さん相手にそんな事しませんて。でも手足無くて動けない京さんとか…考えただけでも興奮しますね」
「え?何処がなん気持ち悪い」
「だって俺が全部身の回りの世話するんですよ!勝手にキスしても平気って言う」
「…やっぱお前気持ち悪い」


るきの考えとる事はようわからんわ。

映画一緒に観た後は、感想言うたり話するけど。
るきの話には『もしも』が多い。

この話も、映画の中の話で滅多に四肢いっぺんに無くす事は無いし、耳も声も損傷する事は無い。

…今の所は。


でもこんな、今まで普通に暮らしとった伴侶が四肢欠損で帰って来たら女の様に嫌んなるわな。

僕ならそのまま殺してくれてえぇとさえ思う。


動けんかったら暇そうやし。
声ぐらい出たらそのままライブするんやけどなぁ。


「まぁでも、俺があぁなったら邪魔でしょうから普通に捨ててくれて構わないんで」
「…何それ」
「京さんが歌う邪魔になりたく無いんですもん。世話とか出来ないでしょ、京さん」
「…まぁ、」


そうやけど。

確かにるきやったら自分の事よりも僕の音楽を最優先させる事は、ごく自然に言うやろし。


眼鏡の奥の瞳が細められて薄く笑うるき。


るきの言葉は僕はコイツを迷わず捨てる、そう確信しとる様な口調で。

それはそれで、言われると腹立つモンがある。


「人雇えばえぇし、お前1人ぐらい養えるわボケ。アレや、持ち運びに便利やからツアーに連れて行けるしな」
「何ですかソレ。物じゃないですよもー」


笑ってチューハイを飲んだるきは、僕の肩の方に頭を寄せて来て甘えて来た。


少し嬉しそうな顔して、コイツはホンマに単純やなって思う。


そんなすぐに切り捨てる程、僕は薄情な人間と思われとんかい。

ムカつくわ、るきの癖に。


「ぁいたッ。何で叩くんですか」
「何となく」
「ひでー!」
「でもアレやな、食う事とセックスが楽しみんなっとるトコ見ると、るき淫乱やからずっとヤリたいヤリたい言うてそう」
「ちょ、俺そんな淫乱じゃねーっすよ」
「何処がやねん淫乱ドMの糞犬が」
「あ、京さんにそう言われるのはちょっと好き」
「せやろな」


やからドMなんやってるき。


僕の肩に擦り寄るるきの方をチラッと見る。
アルコールの所為で赤い顔。


眼鏡をむしり取って後頭部を引っ掴み僕の方へと引き寄せる。
直ぐ様、首に回って来るるきの腕。


お互いが支え合って生きてかんと、バランス崩れるモンやんな。
あの映画の様に。


温かみのある両腕が僕の身体に絡み付いて来る。
『もしも』なんて考えんでも、それが当たり前の日常でそれを継続する事だけ考えとればえぇねん。




20110922



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