少しの言葉と行動と/敏京




「あ、敏弥。今日まこと飯食いに行くから」
「えっ」
「今連絡来たん。まこも空いとるみたいやし」
「…そう」
「何その顔」
「別にー。いつもこの顔ですぅ」
「嘘やん」


休憩中。

携帯をイジっとって、メールを打ち終わると隣に座る敏弥を見る。

まこと久々に仕事帰りに飯行く約束して。
その事を敏弥に言うたらむっちゃ不満そうな顔された。

から、ちょっと僕もムカつく。

まぁ付き合ってからは比較的毎日の様に家帰っても一緒に過ごすけど。
ちょっと僕が他の誰かとどっか行くと、そんな態度取るんは、どうなん。


「飲みに行くのー?」
「多分」
「そっかぁあ…」
「うわ、何やねんくっつくなウザい!」


敏弥がソファの上で、僕に覆い被さる様にくっついて来た。

ちょぉ此処仕事場やし。
他の人間おるし。

敏弥の顔を押して、僕の身体から引き剥がす。
言うても、リーチが違うから僕が腕伸ばしても敏弥は届く訳で。


腹立つ。
無駄に縦に成長しやがって。

いやでも横に成長するよりマシか、うん。


1人納得しながら、離れた敏弥から距離を置く様にソファの端に寄った。


「じゃ、終わったら俺んち来てよ?ね?」
「うーん…場所による」
「じゃぁ俺が京君ちで待ってるからぁ」
「え、何時になるかわからんし、自分ちで寝とったらえぇやん」
「そんな事言っても京君は俺んち来て寝てたりするもんね。可愛いからね」
「うわ、ムカつく。絶対お前んちや行かんから。知らんもう」
「あぁあぁぁー…御免ね。やだやだ来てよー」
「はぁ、」


僕の方に詰め寄って来て、僕の手を取って指を絡ませて来る敏弥。
何か、時々これでえぇんかとも考えてしまう程、敏弥って僕ん事、うん。


「何なん。ただまこと飲みに行くだけやん。何でそんなんなんお前」
「え?どう言う事?」
「うーん、嫉妬って言うか、束縛って言うか…そんな僕信用無いんかって腹立つんやけど」
「あ、あー…そうじゃ無いよ。そうじゃ無いけど、一緒にいたいんだもん京君と」
「でもまこと飯食いに行く言うた時とか、嫌そうな顔するやん」
「……」
「それ僕も嫌なんやけど。気分悪いやん」
「……うん、御免…」


そう言うと、敏弥は目に見えてヘコんだ。
何やそこまでヘコまれると僕が悪い事言うたんかなってぐらい。

いや、僕は別に悪い事言うてへんで。


力無く握られる敏弥の手を、次は僕が握り返した。


「僕そんな信用無いん?」
「…そうじゃないって」
「自信無いん?」
「え?」
「僕に愛されとる自信無いん?」
「…え、それは京君が俺の事を愛してるって言ってる様に聞こえるんだけど」
「は?今更何言うとんお前」
「あー…え、ちょっと待って…やっべ、超嬉しいんだけど京君がそんな事言ってくれるなんて!」
「……」


さっきまで僕に言われてヘコんどった癖に、次はニヤニヤしとる。

気持ち悪…、やなくて。


「そっかそっかぁ。俺も京君の事愛してるよー」
「くっつくな気持ち悪い」


嬉しそうに笑う敏弥が僕に抱き付いて来ようとするから頬を掌で押さえ付けて拒否る。

調子えぇな、コイツ。

つーか付き合っとんやから、僕も好きやなかったらおかしいやろ。

とか思いながら、そう言えば自分は敏弥の様に『好き』だの『愛してる』だの、言うてへんかった気がする。


「自信が無い訳じゃないよ。京君は言葉では言ってくれないけど、態度で俺の事好きってわかるからね」
「は、無いわ」
「御免ね。やっぱ京君の事独り占めしたいから他の誰かといると嫉妬しちゃうの」
「アホやな」
「わかってる。今度から顔に出さない様にするから」
「いや、根本的な問題解決してへんのやけど」


顔に出さんって事は、思ってはいるって事やろ。


「んー。でも京君に愛してるって言われたから大丈夫」
「言うてません」
「聞きました」
「チッ」
「舌打ちすんなよ!」


何かアカン事聞いたっぽい。
敏弥を責めるつもりやったのに、何や僕の方が居心地悪いってどう言う事。


でも言葉1つで一喜一憂する敏弥は単純と言うか、たまには言葉にするんも大事なんやなってちょっと思った。


繋がれたままの手を、ぎゅっと握り締められる。


「嫉妬して御免ね」
「ホンマにな。どなんかせぇよ」
「大好きなんだよ。わかって」
「好きなら自信持って自分の所に帰って来るって構えとけやボケ」
「うん。男前だねー京君は」
「お前が女々しすぎるんや」
「あは。だから俺らバランスいいカップルだと思わない?」
「……」


…まぁ、確かに。

やなくて。


しゃーないか。
告白して来た時から、敏弥は女々しかったな。


結局惚れた方が負けの恋愛は。
お互い、勝てない。




20110912



[ 181/442 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -