同じ空間で過ごす相手/京流
マンションに着いて、そう言えば僕通販しとったDVD届いてへんかなって思って何となく見た僕らの部屋の郵便受け。
ダイヤル式の鍵を開けて、中を見るといくつかの郵便物。
ほとんどが引き落としになっとる請求書と、不在届け。
後は何か冊子が届けられとった。
ここ僕の名義やから、僕の名前で来るんやけど。
明らかにるきのヤツやろって言うんもある。
いつもはるきが郵便物取っとるから、今日はまだ帰ってへんのやな。
全部持って、エレベーターに乗って最上階へ。
見晴らしはえぇけど、いちいち上まで行くんもめんどいなー。
言うても引っ越しする方がめんどいしな。
るきが住み出しても特に狭いと感じひんかったぐらい広いし。
いや、でもアイツ服やら荷物多かったなぁ…。
今はインテリアるき好みになってしもたし。
別にるきのセンスは嫌いや無いからえぇけど、時々うるさいインテリアになるんがなぁ…。
そんな事を思いながらエレベーターから降りて歩いて、自分の部屋の前に着く。
持っとった鍵でドアを開けて、中へ入る。
真っ暗で静寂の中。
るきが炊いた香の匂いが微かに鼻につく。
所帯染みたく無いから生活感を無くしたいって言うるき。
本人あんなに家事とかしとんのにな。
暗闇の中、慣れ親しんだ感覚でリビングに入り電気を点ける。
整然と並べられた家具。
一瞬明るさに眉を寄せて、ソファに座って郵便物をテーブルへと投げた。
生活感が無い部屋って言うんは、人間らしく無いと思う。
こうして静寂の中1人でおると、昔みたいに僕は1人で暮らしとるみたいやん。
腹減ったけどるきおらんし、一度ソファに座ったら動くんめんどくなって。
煙草を取り出して1本咥えて火を点ける。
背凭れに頭を預けて、煙を吐き出すと空気ん中に掻き消えた。
したら玄関でガチャガチャと鍵が開く音がして。
あぁ、アイツが帰って来たんやなってぼんやり思った。
「京さん、帰ってたんですね」
「今さっきな」
「風呂入ります?」
「めんどいからシャワーでえぇ」
「わかりました。あ、今日スタジオでですね、」
帰って来て早々、今日あった出来事をマシンガントークで話し出するき。
話しながらハットとサングラス取って僕の隣に座った。
適当に相槌打って、少し短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
「京さん聞いてます?」
「聞いとらん」
「もー!…って、あぁッ!これ…!」
「何やもーうっさい」
いきなりるきの声がデカくなって、眉を寄せてるきを見ると、テーブルに置いとった郵便物の冊子みたいなんを手に取った。
「これ!届いてたんですか!」
「何やねん」
「もう京都にしか売ってないからどうしようかと思ったんですけど、通販出来てよかったです」
「何の話、」
「京さん前に京都で撮影したじゃないですか。そのタウン誌です」
「……は?買ったん?」
「買いましたよー。だって京さん事務所に届いたの持って帰ってくれないでしょ?」
「うん」
「だから買ったんです。あー結構早く届いたからよかった」
「……」
アホらし。
るきは楽しそうにしながら開けた冊子をパラパラと捲る。
確か寺か何かで撮影して、いつもと違う雰囲気でよかったけど。
本人目の前にして見るってどう言う了見や、るき。
「………」
「………」
床のラグに正座する状態で真剣に見るるき。
「おいるき」
「…ッ、痛、何するんですかもー…」
「何ちゃうわ、捨てろそんなモン」
「絶対嫌です。こんな感じに撮影する京さん滅多に見えないですから!宝物にします!」
「アホな事言うなアホ」
「ちょ、足!足やめて下さい!」
アホな事言うるきの背中を蹴りまくっとったら、るきが足が届かへん位置へ逃げた。
チッ。
「今回雑誌いっぱい出てるんで買うの楽しみなんです。インタビュー、京さんの考えが読めるんで」
「本人おるやん」
「でもここまで詳しくは喋ってくれないでしょ?」
「…まぁ、」
確かに。
るきが生活感が無い部屋がいいって言う様に、僕は私生活では仕事の事は挟みたく無い。
同業者のコイツと暮らしとるなら、尚更。
るきとはフラットな関係の中、成り立つ方がえぇ。
やから僕は、るきと暮らしとる生活感ありきのこの空間は嫌いや無いよ。
「あー京さんと京都行きてーなー。休み取れ無いですかね?」
「無理」
「ですよねー。俺も京都で撮影したいなー」
「化粧して?寺が全く似合わへんな」
「わかってますよー。京さんと一緒の場所で撮影したい」
「キショ。真似すんなや」
「リスペクトです!」
「訳わからん」
時々、ウザいけど。
終
20110905
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