るきとルキ@※/京流




今日の撮影が終わって深夜。
皆がメイクを落としたり着替えたりする中、不意にメイクを落とそうとした手が止まる。

メイクを落とすのを止めて、衣装から私服に着替えた。

帰る準備をして、鞄の中からサングラスを探してるとすっかりオフ状態に戻ったれいたが近寄って話し掛けて来る。


「あれ?ルキ、メイク落とさねーの?」
「あー、うん。ちょっと前に京さんがメイクしたまま帰って来いって言ったの思い出して」
「へー?何でまた」
「わかんねーけど。雑誌見てたら言われたから。今日もう京さん帰ってる時間だし、そのまま帰ろうかなって」
「ふーん。マンネリ化防止?」
「はぁ?別にマンネリも何もしてねーよ」
「そう?俺は見慣れたけど、ルキって化粧すると化けるからさぁ」
「鼻に布まで巻いてるヤツに言われたくねーよ」
「ははっ。今日車だし、送ってこーか?」
「マジ?じゃいつものコンビニ寄って」
「了解」


サングラスを掛けて、れいたの申し出に頷く。


何か軽く食って帰りたかったけど、さすがにメイクしたまま店入んのも嫌だし。
コンビニで必要な物を買って、れいたにマンション前まで送ってもらった。


「サンキューれいた。またな」
「おぅ。頑張り過ぎて明日遅刻すんなよ」
「何を頑張るんだよ馬鹿」
「そりゃーなぁー」
「ウゼェ。もう帰って。おやすみ」
「はいはい、おやすみー」


ニヤニヤするれいたに眉を寄せて、手で払う仕草をすると笑いながら手を上げて車を走らせてった。


エレベーターで最上階まで行って、自分ちの玄関の鍵を開ける。
ドアを開けると京さんの靴があるのを見つけて。


何か、京さんにメイクしたまま帰って来いって言われたけど。
オフの状態でメイクとかどうすればいいのかわかんねー。

仕事じゃねーのにメイクしてんのって馬鹿みたいじゃね?

京さんの反応が気になるのと、自分の状況に一抹の不安。


そんな事を思いながらリビングに行くとソファに座る京さんが見えた。


「京さん、ただいま」
「おー、お帰り」


京さんは風呂上がりだったらしく、ジャージの下だけ穿いて上半身裸で髪をタオルで拭いてた。
こっちをチラッと見た京さんの隣に座る。


「京さん、俺今日撮影だったんですよ」
「ふーん」
「だから、一応そのまま帰って来たんですけど…」
「は?」


京さんの隣で掛けていたサングラスを外す。

俺の顔を見た京さんは一瞬不思議そうな顔をした。


「……、え?何で化粧したままなん?」
「…京さんがそのまま帰って来いっつったんじゃないですか。覚えて無いならもういいです落として来ます」
「何やと」
「ちょ、」


京さんの言葉に、律儀に覚えて約束守ってた自分が馬鹿みたいに思えて。

京さんから視線を反らして立ち上がろうとするのを京さんの手が俺の手を掴んで阻止して来た。
から、ソファにまた沈む。


「何すか」
「お前何やその態度」
「別に」
「僕が忘れとったんがムカつくんかお前。あ?」
「ちが、」
「違わへんやろ。そう言えば言うたな、僕。そのままで帰って来いって」
「痛…っ」


忘れてたのは京さんで、俺は約束を守っただけなのに。
京さんの言葉は俺を責める様な言葉で。


顎を強く捕まれて京さんの方へと強制的に向かされる。

濡れて張り付いた黒髪。


じっと俺を見下ろす瞳に息が詰まる。


狡い、京さん。
そんな風に見られたら何も言えなくなるじゃん。


俺の反旗なんか、絶対許さない認めない。
そんな意図が込められた手に今さっきまで京さんに抱いた俺の思いなんて微々たる物で。
一瞬で消える。


京さんの支配下に置かれた自分。
興奮するなって方が、無理だろ。


「ほなその化粧して化けとるオキレイな顔よぉ見してみ」
「…ッ、や」
「嫌?僕の言う事が聞けへんの?」
「ぁ、ごめ、なさ…っ」


ギリッと顎にかかる手に力が入って痛みに思わず顔を動かして解こうとしたけど無理で。

眉を寄せた京さんの顔が、更に近付いて至近距離で見下ろされる。


じっくり、顎のラインから目元まで。
京さんの眼球が、俺の顔を映していって。

反らせないその瞳にゾクゾクする。


「は、全然ちゃうなお前」
「京さん…」
「今からそないなってどなんするん。オラ、ベッド行けや」
「…ッ、」


顎から手を離されて腕を引き上げられる。
何を意味するかなんて、考えるまでも無い京さんの言葉に。

呼応する自分の身体。

オフの時の俺に、仕事の時の自分の顔。

それを京さんに見られるって、不思議な感じがする。






[ 175/442 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -