夏でなくてもいい/京流
仕事が終わって深夜。
タクっていつものコンビニで色々買ってからマンションへ帰宅。
鍵開けてドアを開けると、るきの靴があったから帰っとんやなって思ったけど何やリビングは暗い。
でも淡い光は漏れとるから、るきがテレビか何かつけっぱなしにして寝たんかな思いながら廊下を歩く。
リビングでそのまま寝とったらめんどいなって思うけど、今は夏やし平気か。
飯は仕事場で食って来たし、風呂沸いとんかな。
眠いし、風呂入って寝たい。
リビングに繋がる扉を開けると、真っ暗な中テレビだけが点いとった。
音声がない。
ついでに言うと、テレビ前のソファに座るるきの後ろ姿も見えた。
何や、起きとったん。
僕が帰って来たんにも気付かん程、映像に集中しとんかって思いながらソファに近づく。
るきはテレビに繋いだヘッドフォンで音声を聞いとるようやった。
画面を見れば、まぁよくやるようなホラー系。
何やるき。
夏やから観とんか。
部屋暗くしてヘッドフォンして、どんだけ雰囲気出したいん。
画面に集中しとるるきの後ろ、心無しかゆっくり気付かれへんように近寄って。
コンビニで買って来た烏龍茶を取り出して。
無防備なるきの頬に、後ろから冷たいソレを押し付ける。
「ッひぃ…!!!」
ビクッておもろい程、るきの身体が跳ねて。
くっつけた烏龍茶をソファに投げて、るきの髪の毛を引っ掴んで上向かせる。
したら、るきが咄嗟な行動で僕の手を振り払おうと手を上げる。
「痛…ッ、や…!」
「おい」
「……っえ?」
あ、ちょぉ爪で引っ掻こうとしたやろ。
腹立って、パニックになりかけよったるきの髪を更に強く引っ張って、顔を覗き込む。
したら、るきは暴れるん止めて僕の顔を見上げた。
呆然と僕の顔を見るるきを鼻で笑う。
一気にるきの身体から力が抜けて、僕の手首を掴んどった手がほどかれる。
僕もるきの髪から手を離した。
「も…マジ…びっくりしたんですけど…何するんですか京さん…」
「何かるきが観とったから。夏のホラー気分を味合わせたろ思ってな」
るきはヘッドフォンを外しながら、大きく息を吐いて安堵した声を出す。
ソファの前に回って、るきにくっつけた烏龍茶のペットボトルを拾い上げながらそんなるきの隣に座る。
「あーもー…今でも心臓バクバクなんすけど」
「何やるきちゃん泣いてもーたん?」
「…ッ、誰の所為ですか!」
「僕やね」
るきはソファの上で僕の方向いて、眼鏡をずらして目頭を指で擦る。
ニヤニヤしながら言うたったら、るきはムッとした顔をして声を荒げた。
そんなるきを笑いながら、テレビに繋がっとるヘッドフォンの線を引っ張って抜く。
途端、大音量の音声が部屋ん中に響いて眉をしかめた。
こんなデカい音量で聞いとったら、ほら人が来ても気付かんわな。
るきのビビッた姿、おもろかったけど。
「るき、リモコン。音量」
「あ、はーい」
単語だけ言うと、るきはリモコンを取って音量を下げた。
「…これおもろいん?」
「んー。B級でしたね」
「ふーん」
「あ、京さん通販でDVD買いました?届いてましたよ」
「あそー」
るきがテーブルの上に置いとったモンを僕に渡して来る。
烏龍茶を飲みながらソレを受け取った。
うん、確かに僕が頼んだDVDやんな。
またオフん時に観よ。
そんな事を思いながら、るきが観よったホラー映画をボーッと見つめる。
途中から観たから、全然話わからんけど。
「…何、くっつくなや」
「やー、ほら、ホラー映画が怖いなぁって思いまして」
「さっきB級言うたやないかお前」
「あは。さっき京さんに驚かされて怖いんですー」
「泣いとったしな」
「…泣いてません」
「嘘吐け。また泣かしたろか」
「早々泣きませんよ!」
「ふーん?」
「……」
「……」
るきは僕の肩に頭を置いて腕にくっついて来た。
何でコイツはいつも甘えて来るんやろ。
男やろ。
しゃんとせぇよって思うけど。
別に突き放す理由もなく、しゃーなしにそのまま。
ホンマ怖くないなこのホラー映画。
B級もえぇトコや。
るき驚かした方がよっぽどおもろいし。
暗い部屋の中、テレビの明かりだけでホラー映画観るとか言ういかにもな事やっとって。
眠かったんに何だかんだ観てもうた。
『怖いから』って大義名分で僕にくっついて来たるきは満足そう。
お前怖いとかちゃうやろ。
また泣かしたろ。
終
20110828
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