考えるのは貴方の事/京流




京さんが海外でライブ遠征中。
仕事も多々あるけど、イベントに出演したりしてその打ち上げ中。

深夜いい感じに皆アルコールが入って音楽の話やバンドの話をしてる途中、自分の携帯が鳴る。

ディスプレイを見ると『京さん』の文字。


軽く謝って席から外れて、店の外に出る。
アルコールが入った身体が、夏だけど夜になって涼しい外気が心地よかった。


「もしもし、お疲れ様です」
『しんどい』
「京さん今、」
『バスん中。日本帰りたい』


直ぐ様、耳に届いた不機嫌そうな声に笑みが浮かぶ。
何だかんだ、京さんとの電話も久し振り。

メールは送ってるけど、京さん気が向いた時にしか返信来ねーし。

愚痴でも何でも、京さんの声が聞けるのって嬉しい。


「もう少しじゃないですか」
『無理。海外はやっぱ合わんわホンマ嫌。毎日毎日飯不味いし』
「あー…じゃぁたまには外出てみるとか」
『何で?』
「何で、って…。気分転換、とか…?」
『ならへん』
「えー海外の有名観光地とかよくないですか?建物とか写真撮って来て下さいよー」
『嫌やし。ほなお前来いや自分で撮れ』
「行っていいなら行きますよ。ライブも」
『……言うたらホンマに来るんやろな、お前…』


そりゃぁ、ね。
それで関係成り立ってたから、もう条件反射みたいなモンだし。


溜め息を吐く京さんに小さく笑って。
店の前の入り口から離れた所で何となくうろうろしながら電話する。

人多いし都会はそんな行動してても皆が無関心で、楽と言えば楽。


『はー…バスん中ってネットぐらいしかする事ないからストレス溜まるわ』
「だから観光行きましょうよ。通訳のスタッフいるんですよね?」
『…ふーん。そんな僕に外行けと。気分転換に金髪碧眼の女を捕まえて来るわ』
「ちょ、ダメですよ何してんすか」
『お前が外出ろ言うからやん』
「ヤですそれなら俺がそっち行きます!」
『アホか。そんな気ぃ起きひんわただでさえライブで疲れとんのに』
「絶対ですよ!?」
『しつこい。お前どうなん』
「あー、俺の方はイベントとか出てて。今打ち上げ中です」
『ふーん』
「ホントは京さんの歌とかカバーしたかったんですけどねー」
『うわ、絶対嫌。るきには無理』
「…そう言われると若干ショックなんですけど」
『当たり前やん。お前音域そこまでないし』
「それはそうですけどー…」


って、あれ?


「え、京さん俺の音域知ってましたっけ?」
『……』
「俺があげた音源、聴いてくれてる、とか…」
『……』


いつも俺の歌、興味ないからって聴いてなかった気がする、けど。

聞いたら、電話口の京さんは黙って。


「え?京さん?もしもし?」
『…じゃ、もう切るわ。ほな』
「えっ、ちょ…っ」


そう言って切れた通話。
電子音が聞こえる中、携帯を見つめる。


何とたく、口元がニヤける。

誤魔化すならいくらでも言い訳出来るだろうに、それをしない京さんが愛しい。


否定しない事は、予想する事を肯定してる様なものだし。


何だかんだで聴いてくれてんだなーって思う。

時々ライブにも来てくれるし。


今どんな気分でバスの中にいるのかな、京さん。

考えただけで口元が緩む。


少しの間だけ話しただけで、すげー幸せな気分になれた単純な俺。

上機嫌で、また店内に戻る。
またザワザワと騒がしい中、元の位置に座ってもう温くなったカルーアに口を付けた。


「あ、ルキさん何処行ってたんすか」
「ちょっと電話」
「嬉しそうにして、彼女ですか」
「秘密ー」
「えー?ってか二次会、行きたいヤツはカラオケに行くらしいんすけど、ルキさんも行きますよね」
「俺また歌うのかよ」
「いいじゃないですか。ルキさん来てくんねーとつまんないですよー」
「はいはい」


隣に来た後輩と話しながら煙草に火を点ける。

ま、京さんいねーから二次会でも何処でも行きますよー。

俺の生活の基準、京さんとバンドだからね。


「皆も行くの?」
「結構行く人多いですよ」
「ふーん。虎も?」
「ルキさん行くなら」
「何だそれ」
「や、あんま話す機会ないんで、話聞きたいなって思って」
「確かに。事務所同じでも会う機会ねぇなー」


色々と話しながら、後で京さんにメールしとこうかな、とか考える。

多分さっきの事があるから返してくんねーだろうけど。

そう言う所が、好きなんだよね。



20110819



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