ドラム式洗濯機のアレ/京流
るきと2人でラグの上に座り込んでパソコンの前。
テーブルに適当に買った缶チューハイを片手に噂んなっとる映像を一緒に観る。
「…これ完璧に京さんですよね」
「僕やなぁ…」
「何でオフの日にテレビに映っちゃってるんですか」
「煩い僕やって知らんわ」
「都合良くこの女映ってるんで、嫁とか言われてますけど」
甘めのチューハイを口に運びながら、眼鏡を掛けたるきは視界は見えとる筈やのに眉間に皺を寄せて。
一時停止された粗い画像の後ろ姿の女を指差した。
嫁、って。
なぁ…いつの間に僕って結婚したんやろ。
ファンの間でギャーギャー言われとって、それはるきの耳にも入る事で。
ホンマかって調べる為に一緒に観てんけど…。
確かに僕や、映っとんは。
少し、拗ねた様なるきの口調にイラッとする。
「大体あん時、るきが乾燥機付きの洗濯機欲しい抜かすから悪いんやろ!わざわざ僕オフやのに連れ回して!」
「だって京さんオフだったら一緒に買い物行きてーじゃん!家電とかデカい買い物だったし!」
「はー…でもこれ、るきがおらん時でよかったわ、ある意味」
「…こん時、俺何でいないんすかね?」
「近くの家電に目ぇ奪われとったからちゃう。僕に資料渡されても知らん言うねん」
「そうでしたっけ?や、でも確かに2人で洗濯機選んでる所じゃなくて良かったー。嫁どころの騒ぎじゃないですよね」
「ホンマにな。こんな知らん女が映り込んだぐらいで憶測飛ぶんやから。ファンはワケわからんわ」
溜め息を吐いて、チューハイを口に運ぶ。
甘い。
まぁ、テレビに偶然映り込んでもうたんはしゃーないし。
ほっといたらその内、噂も消えるやろ。
るきと一緒やなくてよかった。
何か色々面倒な事になりそう。
事務所絡みとか。
「はーでも、完全オフ状態の京さんをテレビで観るって何か不思議な感じがしますね」
「オフィシャルでもないしな」
「気軽にファンにオフの姿見せないで下さいよ」
「知らん。このテレビに言え」
「やっぱ俺も一緒に映って、洗濯機選んでたら俺が嫁って言われますかね?」
「言われたら僕が嫌やわ」
何でるきが嫁やねん。
でもこん時って新しい洗濯機も買ったし、服買ったりアクセ見たり飯食ったりして、すっかり忘れとったわ。
こんな事があったん。
「…もーえぇやろ。何回観とんねん」
「あっ」
アホみたいに何回も繰り返して観るるきのマウスを握る手に手を重ねて。
ソレを動かしてパソコン画面に広がっとった映像を消す。
「何かこの京さん可愛かったのにー」
「誰が可愛いやねん。シバくぞ」
「痛ッ、もう叩いてるじゃないですか!」
「あー煩い煩い」
可愛い抜かするきの頭を叩くと、不満そうな声を上げて叩かれた所を撫でた。
残りの缶チューハイを全部飲み終わって、缶をテーブルに置く。
「もう、京さんひでー!」
「煩い言うとるやろ」
「ん…ッ」
まだギャーギャー言うるきの後頭部に手を回して。
るきの頭を引き寄せてキスしたる。
唇を甘噛みして、薄く開いたるきの唇から舌を差し込んでるきの舌を絡め取る。
チューハイ飲んどるから、るきの口内は甘い味。
るきは鼻にかかった甘えた声を上げて、僕の服を掴んで来た。
変わり身早いな。
そう言うアホなトコが、かわえぇくて気に入っとる。
嫁とか、勝手に騒いどったらえぇけど。
うちにおるヤツは、あんな黒髪でも髪長くもなくて。
ましてやスカート穿いとるような女や無い。
虚像のモンしか観えへんのやから、勝手に言うとったらえぇよ。
真実は、全く違うモンやから。
ホンマ、るきが映らんでよかったわ。
虚像しか見ぃひんヤツに、こいつを見せるんは勿体無い。
終
20110804
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