夏の風物詩/京流
何かこれ見よがしに飯食っとるテーブルの上に置かれとんがあるんやけど。
何なんコレ。
いや、何かはわかるけど。
るきが言いたい事も嫌でもわかるけど。
こんな食べとる時に嫌でも視界に入る、小さめの花火の袋。
線香花火らしい。
それが僕によう見えるように置かれとって無視しとるけど、るきからは何も言うて来んし。
したら逆に気になるやん。
夏やし、夜も遅いからって言う理由でテーブルの上に上がった素麺をるきと向かい合ってるきが話するんを適当に返事しながら黙々と食べる。
他にオカズも作っとるし、さっぱりしとって食べやすいからえぇねんけど…。
るきの事やから飯食った後にでもこの花火やろうや言うて来るんやろなぁ。
そんな事思いながら、お互い素麺を食べ終わってお茶を飲んで煙草に手を伸ばす。
火ぃ点けて煙を吐き出す。
食後の一服は、やっぱ旨いと思う。
目の前のるきは、僕の分の皿も一緒に集めて立ち上がってシンクの方へと持ってった。
その姿をボーッと見ながら、ゆったりと煙草を吸う。
「京さん、アイス買ったんですけど、食べます?」
「食う」
「ガリガリ君のソーダ味と梨味、どっちがいいですかー?」
「何それ。どっちでもえぇわ」
「梨味もう今年の夏分は製造停止したんですよ。今売ってる分しかないんですよ」
「知らんし」
「だから特別に京さんに梨味あげますから。味わって下さい」
「そんなアイス味わうも何も…」
はい、とるきはガリガリ君て書かれたアイスの梨味を差し出して来た。
アホな事言うとるなぁ…って思いながら、煙草を灰皿に揉み消して差し出されたソレを受け取る。
「で、京さん線香花火買ったんでやりましょうよ。ベランダで」
「……」
やっぱりか。
コイツは行動に期待を裏切らんと言うか何て言うか。
「京さんと今年も花火大会行けそうにないし、せめて家で。線香花火だったらベランダで出来るし」
「何でそんな物悲しいモンるきと2人でやらなアカンの。花火見たいならベランダから見える時あるやろ」
「あれはあれで綺麗ですけどー…まぁ、いいじゃないですか京さん。お願いします」
「……」
お前アレやな。
男の癖に所作が女みたい。
頼む時の表情と仕草、それわざとやろ。
アイスの袋開けて、かじりよったら同じくソーダ味の方食っとったるきが、テーブルの上に置いとった線香花火を手にして。
僕の腕を引いた。
その手を振り払って立ち上がる。
アイス食いながらベランダの方歩いてったら、るきも嬉しそうに後をついて来た。
もう最近、自分甘やかしとんなって自覚はあるけど。
一緒に暮らしてるきのする事がわかるって言うんは、反対に言えばるきも僕の事をわかって来たって事で。
僕がどうされるのが好きか、わかっとってわざとならタチ悪い。
夏の夜は、昼間と違って意外と涼しい。
「おい、こんな事で待つん嫌やから早よせぇ」
「ちょっと待って下さい…ライター…」
お互い向かい合って。
部屋の明かりだけしかない広いベランダ。
まぁバルコニー言うらしいけど、差がようわからん。
膝立てて座り込んだ状態。
るきに渡された細い線香花火。
るきはもうすぐ食べ終わるアイスの棒の部分を噛んで、ポケットを探ってライターを探す。
「あ、あった。京さん点けますよー」
「んー」
カチッとライターの光が灯って、僕が持った線香花火と自分のヤツに火ぃ点けた。
途端、パチパチと跳ねる火花。
…やっぱ物悲しいやん。
男2人で線香花火なんか。
跳ねる火花を眺めながら、意外と美味しかったアイスを食い終わって。
ここ外やからゴミ箱ないし、そこら辺に棒を捨てる。
「あ!京さんそんなトコに捨てないで下さいよもー!」
「知らん。もう中入ってえぇ?虚しいし」
「ダメです。まだ残ってるんで」
「…線香花火楽しいんか。ガキめ」
「京さんと一緒に夏の思い出作りたいだけですー。梨味、美味しかったでしょ。夏限定ですよ」
「…まぁまぁやったな」
花火と部屋の明かりだけで見える、笑ったるきの顔。
素麺食ってアイス食って花火やるとか。
確かに夏っちゃー夏の出来事やんなぁ。
「はい、京さんもう1本」
「もう一気に全部火ぃ点けたらえぇんちゃうの」
「…はい、着火ー」
「無視かコラ」
「うわわわ!京さんこっち持って来ないで下さい!腕!熱い熱い!」
「えぇやん線香花火で根性焼き。格好悪くて」
「絶対ヤです!」
「はは」
「だから、熱ッ…!」
うん。
嫌がるるきに花火向けてやるんは楽しかったけどな。
もうすぐ日本と海外でのタイトライブが始まる。
その前のゆっくりとした時間。
こう言うのは、心地えぇな。
終
20110801
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