環境と変化/京流
仕事疲れて家に帰宅。
ドアを開けて玄関に入ると、るきの靴があった。
帰って来とんや。
全部靴箱に片付けられて、必要最低限の靴しか出してへん綺麗にされた玄関。
るきはホンマ綺麗好き。
飽き性やし。
片付けられへんのに飽き性で次から次へと買い物するよりはマシか。
疲労から溜め息を吐いて靴を脱いで廊下を歩く。
電気点いとるからリビングにおるらしい。
リビングに通じる扉を開けると、ディスクトップがついたままのるきのパソコン。
「………」
ソファに近づくと、デカいソファの上に身体を縮こませた姿で寝とる、るき。
いやまぁ寝るんはえぇけど…何やろ。
この周りにある僕が載っとる雑誌は。
何冊かソファの上に置かれた雑誌を見下ろして溜め息。
雑誌は僕持って帰らへんし、買ったんかこれ。
毎度毎度の事やけど何でるきって買うんやろ。
僕が雑誌やDVDや音源用に作った部屋は今はるきが持って来たヤツも相まって満杯になっとる。
新しい棚買うとか言うとったな。
るきのモンやし、勝手に捨てたりはせぇへんけど…10年以上前のモンまであるからえぇ気分やないわ。
数日前に受けたインタビューを思い出して、疲れた身体にまた疲労が重なった気がした。
ソファの上で寝るるきの寝顔を見下ろす。
またパーマかけて、ころころ雰囲気が変わるるき。
寝顔は変わらんけど相変わらず青白い。
仕事フリークなトコあるし、家では家事しよるし。
そら大変やわな。
鞄を床に置いて、ちょっと屈んでるきの顔にかかった髪を掻き上げる。
僕の音楽を好きなんはえぇけど、やっぱ雑誌とかそんなん見るんは複雑な気ぃする。
同業で後輩って事もあるんやけど。
るきとの生活は、そう言うんを一切持ち込みたくない。
それがわからんのかこのアホは。
冷房もつけっぱなしやし、寒いんか知らんるきが自分の身体を抱く様に腕を回す。
「…おい、起きろ」
「───…ん、」
「寝るならベッドで寝ぇや。風邪引いても知らんで」
「……きょー、さん?」
「自分でベッド行きや。オラ邪魔」
るきの肩を掴んで軽く揺さぶる。
るきは少し眉を寄せて瞬きをしながら目を開けた。
少し眼球が周りを見る様に動いて、僕を捉えた。
「…おかえりなさい。俺寝てた?」
「うん」
「あー…今何時ですか?」
「知らん」
「ん゙ー…」
寝惚けた感じのるきは、手で顔を覆いながら起き上がる。
眼鏡を探して、多分持ったまま寝てもうたんか床に落ちとったんを拾って掛けた。
伸びをして息を吐く。
どうやらまだ寝る気ではないらしい。
「るき、これ何」
「あっ。すみません、新しく買った雑誌、本棚にしまおうと思ってたら読み返したくなっちゃって」
「…全部買ったん」
「買いました。音源はまだ聴いてないですけど。アルバム出るまで待とうかなって思って」
「あっそ」
るきが、ソファの上に置いとった雑誌をかき集めて、綺麗に揃えてガラステーブルの上に置いた。
空いた広いソファに座って煙草を取り出す。
「でもどの写真も京さん格好良かったですよー」
「そー」
「って言うか、京さんって雑誌の写り、柔らかくなりましたよね」
「は?」
「何て言うか…トゲトゲした感じが無くなって穏やかだなーって」
「………」
「ライブでは迫力満載なんですけど、そのギャップがまた好、」
「あーはいはい、煩い」
何かグダグダ言うるきの言葉を遮って、煙草に火を点ける。
るきは何か言いたそうな表情をしながら黙った。
それがガキみたいで、ちょっとおもろくて鬱陶しい。
るきが不機嫌な感情を出すんは、ムカつくけど僕と一緒に暮らすんに人形みたいになられたら嫌やから、それはそれでいい。
何でやろな。
でも人間変わらな、進歩がないやん。
その変化する環境ん中で。
少なからずコイツがおったからやな。
絶対、言いたくないし認めたくはない事やけど。
終
20110725
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