ハンドケア/京流
ソファの下のラグに胡座を掻いて座って、放置しとった爪を爪切りで切る。
ぱちん、ぱちんと軽快な音を立てて自分の爪が切られてった。
るきが用意した、テーブルに広げられたA4用紙の上に切られた爪を捨てていく。
るきは僕とは違うテーブルの一片に座ってパソコンをいじっとった。
眼鏡かけて、Tシャツ(僕のバンドのヤツってどう言う事や)と黒のスキニー。
眼鏡かけとる筈やのにパソコン画面を睨み付けるように見とる。
目ぇ悪いから人相悪いやんなぁ。
そんな事を思って、るきから視線を外してまた自分の爪を見た。
全部の指の爪を切り終えると。
るきが持って来た爪ヤスリに持ち変える。
別にこんな糞丁寧にやらんでえぇかとは思うけど。
まぁ、昔からの染み付いた癖やんな。
今はるきとやけど、別に女抱いてへんかったワケちゃうし。
そんな理由で爪だけは綺麗に切る癖が付いてしもた。
つーか、爪やそんな長く生やしとれへんしな。
小さな音を立てながら、切った爪をヤスリで綺麗に整えていく。
10本全部が綺麗に出来た所でヤスリを置いくと、パソコン見とったるきがこっちを見た。
「京さん爪切り終わりました?」
「終わった」
そう言うと、るきは立ち上がってどっかに行った。
すぐに帰って来たんやけど、その手には何か持っとって。
「じゃ、ハンドマッサージしますね!最近いい匂いのハンドクリーム買ったんすよ」
「あーそうなん」
「手、貸して下さい」
「ん」
るきが僕の横に座って。
何か小さめの入れ物からクリームを絞り出しとった。
したら、ちょっと果物の匂いが鼻に届いた。
別に断る理由も無いからるきの方に手を差し出す。
「後でネイルのオイルも塗りますね」
「はぁ?何それ」
「や、俺最近ジェルやってるじゃないすか。そこで売ってたんですけど爪にいいらしいですよ」
「はー…お前色々買って来るなぁ…」
「こう言うの好きなんです。いい匂いでしょ?これ」
「まぁ」
「京さん雑誌に載ってましたけど、指荒れてましたよー」
「知るかそんなん」
るきはハンドクリームを掌で伸ばして、差し出した僕の手を両手でマッサージし始めた。
手の甲から、指1本1本まで。
案外、気持ちえぇ。
るきは仕事しとる時と同様、真剣な顔して僕の手をマッサージしとって。
何やその顔がちょっと笑える。
「京さんの手って綺麗ですよね」
「そー」
「男らしくてこう…筋ばってて」
「いや知らんし」
「あ、反対の手もお願いします」
「ん」
またクリーム出して、反対の手をマッサージし出したるき。
どこで覚えてん。
大方自分がされてよかったから、今度僕にしよーとか思ったんやろけど。
「でも京さんて案外爪とか丁寧に切りますよね」
「…なん、るきはマゾやから痛い方がいいって言うん」
「何の話ですか」
「別にー?お前は時々背中に爪立てるんヤメ。わざとやろ、あれ」
「あ、やっぱわかります?」
「わかるわ。お前爪立てる時はいつもと違う事するし」
「あは。好きなんです、爪痕ついた京さんの背中見るの」
「ふーん」
「あんま余裕ない俺が出来る数少ない京さんに残せる事なんで」
「僕そんな趣味ないんでー」
「痛かったですか?」
「別に」
痛くは無い。
こいつもちゃんと爪は整えとるし。
ただこいつの場合、理由がなーキモい。
るきはマッサージ終えると、何かマニキュアみたいな瓶を手に取って。
刷毛で僕の爪を撫でた。
オイル塗る言うとったっけ。
丁寧に全部の爪に塗り終えて、るきの指の腹が優しく爪を撫でた。
「はい、終わりです」
「はいはい、どーも」
「あっ、京さん爪切ったらちゃんと捨てて下さいよ」
「知らん」
「もー」
ぶつぶつ言いながらるきはA4用紙を丸めてゴミ箱へ。
何や僕の手からはえらいフルーツ系の匂いがして来る。
背中の爪痕とかより、こっちのがるきのした事って主張が強い気がした。
まぁ、えぇけど。
終
20110720
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