心音/敏京
「…起きたん?」
「なぁにーねむいー」
「起きぃや。僕もう起きてもたん」
「おれねむい…」
「寝んな」
「やぁだぁー…」
寝てたら、ちょっとした気配に意識を覚醒させられる。
でもまだ眠い。
けど京君の声が聞こえて来て。
多分、彼の指が俺の髪を撫でてる感触。
気持ちイイ。
目を瞑ったまま京君と会話。
もう自分が何喋ってんのかわかんねー。
ふわふわした意識の中、腕を回して京君の身体を抱き締めて。
ぴったりとくっついて顔を埋めてまた寝入る体勢。
そした、ら。
「とーしーやー。なぁ、僕暇やしお腹空いた。しかも雨やで雨。今日仕事あったやんなぁ…外出たない。敏弥」
「…んー…」
「…敏弥起きんのやったら知らんで。ほな僕薫君ちに朝ご飯食べに行くからな。お前は一人で遅刻しとけよ」
「…浮気禁止ー…」
「何が浮気やねんアホか」
「もー…そんなに俺の事好きなの京君…」
「自惚れんな。僕が二度寝出来んのにお前が気持ち良さそうに寝とるからや」
「…んだよ、それ」
我儘ー。
眠いけど、京君の言葉に意識覚醒。
売り言葉ってわかってるけど、薫君だったら京君が来るの大歓迎だろうし、京君も薫君頼りにしてるし…ね。
寝返りを打ちながら目を開けると、間近に京君の顔が見えて。
京君は起き上がると、俺の胸元に乗り上げて来た。
べったりと俺の身体の上に上半身を預けて。
顔だけこっちに向けた。
…何だこれ。
甘え期?
ねぇ、甘え期?
ヤベェ可愛過ぎる。
大好き。
「雨やのにわざわざ薫君ち行くか、バーカ」
「ってか行かせないしね」
「…お前って何でそんなに独占欲強いん?」
「好きだから」
「……」
「何でだろうね。京君は好き過ぎて閉じ込めておきたい」
「嫌やわぁ、こわー」
そう言って笑う京君は、俺の胸元にぺったりと片耳をつけて頭を預けた。
もう、そんな可愛い仕草して。
やっぱり京君は俺の心を掴んで離さない。
何て言うかこう…きゅんってする。
「京君かわいー」
「お前は寝起きで不細工やけどな」
「もーそんなお口は塞いじゃうぞ」
「キモいー」
「あはは」
笑って京君の寝癖がついた髪を掻き上げると目を細めて。
京君は口では憎まれ口叩いたり可愛くない事言ったりしてるけど。
こうして行動や表情で好きって伝えてくれるから。
素直じゃないけど、素直。
そう言う所が可愛くてどうしようもない。
こんな可愛い所、俺にしか見せちゃダメだよ。
「敏弥の鼓動、心地えぇ」
「ん?そう?」
「うん、寝そう」
「コラ、人起こしておいてそれはねーだろ」
「おやすみ」
「もー…きょーくん。お腹空いたんじゃなかったの」
「うん」
「今日仕事だろ」
「…うん」
「遅刻しちゃうよー」
「……ん」
「…俺の事好きー?」
「………ん」
寝ちゃった。
寝れねーから俺の事起こしたんじゃねーの。
俺がもう寝れねーよ畜生。
京君が胸の上に身体半分乗っかってるから、もう寝返り打つ事も出来ないし、動けない。
そんな心地好い重みに笑みを浮かべて。
京君の背中を優しく撫でる。
人の心音はね、安心する音なんだよ京君。
俺の心音で安心して寝てる、とか。
愛しい事しないで。
ますます離したくなくなるじゃん。
『…お前って何でそんなに独占欲強いん?』
そんなの。
こんな京君を見せられて、独り占めしたいって思わない方がおかしいでしょ。
今何時だとか。
仕事行かなきゃとか。
現実的にはしなきゃいけない事いっぱいあるけど。
この時間は手離したくない。
雨の憂鬱な日。
朝から起こされたし起こした本人はさっさと寝ちゃったけど。
幸せだなー、こんな朝。
終
20110719
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