全てを欲する欲/京流+敏心




ホント馬鹿みたい。

何年も前の出来事なのに、今もずっと引きずってるなんて。













ずっと禁煙しようとしてても、イライラが溜まるといつも挫折する。
それで余計にイライラするもんだから、禁煙なんて考えねー方がいいかも。


皆スタジオで缶詰状態の中、休憩になって各自好きに過ごしてた時間。

喫煙所で煙草を吸って、携帯で時間を確認しながら廊下を歩く。


仮眠室で仮眠とろうかな。
連日数時間しか寝てねーし、疲労が蓄積されていくだけで全然休まる時がねー。


首を回して、ゴキゴキ間接を鳴らしながら。
開いてるかなーと思って仮眠室の扉を開ける。


「………、」


残念、先客。


京君。


仮眠室(つっても畳がある部屋がここだけだから、皆が勝手に寝てる部屋だけど)で、薄いタオルケットみたいなの羽織って。
身体を丸めて寝てる君。


一瞬どうしようか迷って、部屋に入って後ろ手に扉を閉める。


靴を脱いで、ゆっくり畳を踏み締めて。
寝てる京君の近くに寄る。


結構寝入ってるのか、起きる気配は無い。


自分の顔を隠す様に腕を覆って寝てる京君の横顔だけが見えて。

もう見なくなった京君の寝顔。


今はこんな顔して寝てんだ。


俺が知らない間に彫られた腕と首筋の刺青が見えて。


膝をついて、京君の寝顔をじっと見下ろす。


別れてから何年経った?

その間、まともに会話したのなんて思い出せ無い。

必要最低限、仕事の事だけ。


何年経っても埋まらない京君との距離。

いや、埋めようとしてない距離。

お互い。


「────ん…」
「……」


京君が寝返りを打って、仰向けになった身体と。

タオルケットにくるまれた刺青だらけの腕。


晒された首元。
鎖骨にも最近新しく増えたヤツが見えた。


ライブ中、京君を後ろから何度も見て。

増えて行く刺青と。
無くなった自傷。


ねぇ、自分の事を傷付けなくなったのは。

あのガキのおかげ?


俺が出来なかった事を、あのガキがやったって言うの?


一時期、容認してた薫君にも強く叱責される程。
激しくなっていった京君の自傷。


俺の京君じゃ無かったら、そんな京君を冷めた目で見てた自分がいて。

理解出来なくて。


孤独だって、自分を追い込む京君を見ていくのが。
自分の心がすっとする瞬間だった。


いつからあのガキの事好きになったの?


俺が何度言っても一緒に暮らす事しなかったのに。
あのガキとは一緒に暮らすんだね。


…もう今は、俺には怯えた視線しか見せねーのに。


それが優越感に浸れると同時に、腹立つ背反する感情。


死に物狂いで音楽を表現しても、死にたくないってあのガキに縋る。


「…そんなに死にたいなら、死んじゃえばよかったのに…」


そうすればこんなに京君を見て、殺したい程、憎らしいなんて思わなかったのかもしれない。


呟いて、晒された首元に手を伸ばす。


指が、皮膚に触れそうになった時。
背後のドアがノックされる音がして、手を引っ込めた。


「…ッ、な、にしとん…」
「別に?何もしてないよ?」


開いたドアに視線を向ければ、心夜が入って来て。
俺がいた事にビックリした様に目を見開いて、表情を強張らせた。


チラッと京君に視線を向けると、まだ起きて無い。
立ち上がって、靴を履くと心夜に目を向ける。


「心夜こそ、どうしたの」
「…薫君がそろそろ京君起こしたって言うから」
「へー、そう」


仕事場はダメだな。
邪魔が入る。


心夜の脇をすり抜けようとした時、手首を掴まれて歩みを止める。


「何?」
「敏弥、」
「離してよ。京君起きちゃうよ?あー起きた方がいい?そしたらここでキスしてやろっか」
「ちが、…ッ」


淡々と言うと、心夜の瞳が歪んで。
バッと腕を払ってさっさと部屋から出て行った。


ホント、馬鹿みたい。


辞められない煙草も、京君への感情も、心夜との関係も。

全部全部イライラする。


いっそ全部、壊れてしまえばいいのに。




20110717



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