仕事に行く前の空間/京流




あ゛ー…ホンマやる気無い。

何この天気。

何でこんな晴れとん。

外出た無いしありえへんし死ね。


仕事行く前。
仕度してソファに座って煙草を吹かす。


るきがデカい窓のカーテン全開にしやがって、光が部屋を満たす。
ソファから窓の外を見ると雲1つ無い東京の空が見える。

室内は空調効いとるから全然涼しいんやけど、これから外出て仕事行くんかと思うと憂鬱過ぎる。


るきは今日オフや言うし。
ムカつく。

ま、るきの事やから仕事しとるんやろけど。


ソファでだらけた状態でおると、キッチンで何か作業しとったるきがこっちに来た。

眼鏡掛けて、邪魔な前髪をピンで留めとる姿やのに。
お前どっか行くんかって言う様な格好しとる。

服好きやもんなー、るき。


「京さんアイスコーヒーどうぞ」
「んー」
「ガムシロとミルクも」
「ん」


るきが作った、グラスに入ったアイスコーヒーを受け取る。

身体を起こして煙草を灰皿に押し付けて消して。

渡されたガムシロップとミルクも入れて、ストローで掻き混ぜた。

るきも自分の分のグラスを持って隣に座る。


「このグラス、新しく買ったんすけど。フォルムすげー綺麗じゃないですか?」
「あー、うん。つーかそんな食器買ってどなんするん」
「やっぱ綺麗な食器の方が美味く感じるっつーか。気に入っちゃって。カクテルグラスとかも綺麗なのあったんすけど、家でカクテルとか作んねーし」
「…嫌やわ、るきがそんなん作り出したら家の一角をバーに改造されそう」
「あはは。ハマッたら凝りたいんで」
「で、すぐ飽きて放置やろ」
「そんな事ないですよー」


どうだか。

るきすぐ飽きるやん。

口つけたアイスコーヒーは甘くて、喉を冷たく潤した。


ちょっとグラスを掲げて見てみると、確かにフォルムは綺麗。
るきはこう言うの選ぶん得意っちゅーか、趣味が合うんか知らん意外と僕が気に入らんモンはない。

ただ飽き性で毎年毎年変えようとするからアカンだけ。

インテリアもよう変えるし、ここは僕んちやったんやけど。
るきのコーディネートした家具がほとんど占めやがった。


「あ、京さん一応今日、日用品買いに行こうかなって思うんですけど、何か必要なのってありますか?」
「この糞暑いのに出掛けるんか」
「やー、やっぱ昼間しか開いてない店とかあるんで。オフの内に買い物しておきたいなって」
「あー…別に今いるモンない」
「じゃ、何か欲しいの思いついたらメール下さいね」
「はいはい。お前は余計なモン買うなよ」
「買いませんよ!最近紫外線凄くて、男性用の紫外線対策の基礎化粧とか売ってんすよ、それ欲しくて」
「…またいらんモンに興味持って…」
「まぁそんなに外出ないですけど、やっぱ変な焼け方したら嫌じゃないですか」
「はぁ…」
「でも今年海とか行きたいですね。京さん海行きません?」
「お前今焼けたら嫌やって、」
「水着の跡は衣装では見えないんで」
「つーか僕刺青あるから無理。日焼けしたら色落ちするやん」
「あー…何か銭湯でも刺青OKな所あるし、室内プールもありませんかねー?」
「知らん」
「あー…京さんと海行きてー」
「…太陽の下が似合わんな、るき」
「…京さんこそ」


でも夏らしい思い出が、京さんと欲しいんでって笑うるきを鼻で笑って。

残りのアイスコーヒーを飲み干した。


何か毎年願望口にしとる気がするわー。
なかなか仕事も忙しいし、叶った事はないけど。

ま、言うだけはタダやしな。


「糞暑いのに夏や絶対外出たない。今日やって仕事行きたない」
「じゃ、サボって俺と買い物、」
「あ、そろそろマネ来る時間や」
「ひでぇ」


携帯を見て白々しく言うと、るきは楽しそうに笑ってアイスコーヒーを飲む。
ストローを噛むんが、るきの癖。


「文句言いながらもちゃんとこなす、そんな京さんが好きです」
「ちゃんとやるから文句言えるんやろ。やらんと言うとんやアホかと思うわ」
「確かに」


はー…そんな話しよったらホンマにマネから着いたらしい連絡来たし。


涼しい室内と、まったりとした空気感を手放すんが惜しいと思うんは。

外が糞みたいに晴れとるから。


隣で笑う、るきのツラ見て。
そう自分に言い聞かせて腰を上げた。




20110712



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